お前は、俺のもの。
ひんやりと漂う空気の中で、微かにムスクの香りがする程、鬼課長の近くに立つのは数日ぶりだった。耳元で聞こえる彼の低い声に、心臓がドキドキとうるさい。
鬼を避けている、いや、仕事上は特に避けているわけではない。
確かに仕事以外は彼とは何も無く、残業もせずに帰る日が続いている。そのおかげで由奈に意地悪されることも、小堺るみに嫌味を言われることもなくなった。
「別に避けていません。人が来ると困るので、離して貰えますか」
「俺はこうしているところを誰かに見られても何も困らないし、噂を広められても何も困らない」
「あなたは困らなくても、私が困るんです!」
私は多分、すごく酷い顔をして叫んだと思う。珍しく鬼課長は目を丸くして私を見た。
「質問があります」
「なに?」
「カフェのレセプションパーティーは、誰と一緒に行くのか、決めたのですか」
「…ああ、決めた」
きっと、元カノの川添穂香を誘ったのだろう。
上品で美人で、会社公認のお似合いカップルとまで言われていたのだ。
そして先日の車の中の二人を思い出して、小さく息を吐いた。体の力を抜いて立ったとき、鬼の腕も力を緩めた。
──私は、彼と一緒にパーティーに行きたかった?