Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜



「私、別れたから。その代わりちゃんと相手見つけてきて下さいね。イケメンでよろしく」
と父に告げるとすぐに縁談が決まった。

育ちが良さそうに見せかけて、女遊びに慣れていそうな男なんて私が見ればすぐに分かる。
高身長・高学歴・俳優のようなルックスと気遣い。杉原颯太はそんな男だった。

私に興味がなかったとしても、セックスさえしてしまえばきっと情が湧いて来るでしょう。
そして、私もこの男に抱かれて忘れてしまえばいい。
今までもそうやって、寂しさを男の体で埋めてきたのだから。

目の前にいる男に抱かれながら違う男のことを考えたのは初めてだった。
蓮なら、こうしてくれるのに。
蓮なら、こう言ってくれるのに。

なんだ、私まだ好きなんじゃん・・・


そんな気持ちに蓋をするように結婚の話をどんどん進めていった。
案外、私たちはちゃんと夫婦になれていた。喧嘩もせず、同じ価値観を持ち普通に暮らしていた。


タワーマンションの高層階で、夫が激務で帰らなくても一人で過ごすのはなれていた。
むしろ気が楽だった。

でも、体は変化した。

「3ヶ月です。おめでとうごいます。」
ここ連日続いた体調不良と生理の遅れで、まさかと思い使用した検査薬にくっきりと線が出て妊娠していることが分かった。早く、報告しなければとスマホを出した時にふと脳裏で嫌な予感がした。

(蓮との子だったらどうしよう・・・・)

報告すると、疑うこともなく大喜びした夫に私は胸をなでおろした。
そして、その頃から私の悪夢が始まった。




連続して鳴り響くチャイムの音に、インターフォンのモニターに映し出された着物を着て紅をしっかり引いて髪型もきっちりとセットした義母。
早く入れてと言わんばかりにそわそわしている。私は舌打ちしたのち笑顔で招き入れた。

「今日、お稽古があって近くを通りかかったから着ちゃったの。おやつ買ってきたから食べましょうね。
お茶入れるわ・・・心春さんは座っていて動かなくていいから・・・ああどうしよう・・・カフェイン入りのもの買ってきちゃったわ~~~。」

「お義母様、1杯くらいなら差し支えないですよ」

「え~~そうなの?でももしもがあったらって思うと心配で・・・」

このような調子で2、3時間居座り私のお腹に散々語りかけて、義兄嫁の悪口を気のすむまで言って帰っていく。
彼女が帰ると魂が抜けたようにどっと疲れてしまう。


「しょうがないよ。おふくろも楽しみで仕方ないんだよ。初孫だしさ。後、俺ら三兄弟で女の子いなかったから娘みたいでお前のことが可愛いんだよ。多めにみてよ」と夫に返されては何も言えなくなっていた。

無事に出産し、産後義実家で過ごすよう促されたが全力で断ったものの義母は毎日のようにやってきた。
頭がおかしくなってきた。

どうにかして、円満に断り今後は来てもらうのではなくこちらからいくことで合意を得た。
一人になり、帰ってくるはずのない夫の帰りを待ちなんでもない一日が終わる。
ノルマも、評価もされない。誰とも会話をすることもない。
意味不明に泣きわめく我が子に不満が募っていく。

(私ってどんな風に愛されて来たんだっけ?)


子供のためにとタワーマンション内のママ友会に嫌々ながら参加をしたもののどうやら住む階数で階級がつけられて私を特別扱いし、影では悪口を言われていることを知る。
嫌味妬みなんて慣れているはずなのに子供のことを言われているみたいで悔しい。

時折、思い腰を上げて尋ねる義実家では産んだだけ私は空気。可愛いのは息子だけ。

そう思っていたのに・・・
何をしても泣き止まない息子の口を塞いだ。
愛おしくて、愛していて、毎日、息子のことばかりを気にかけていたのに、気がついたら自分の手は息子の口を塞いでいた。

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