Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜
俺の予想通りこの騒動で両家は大騒ぎ。
しかしながら、立場上は金城家の方が上の為に上手く丸め込まれてただの泣き寝入りだった。
俺はただただ仕事を頑張っていただけ、家族の為に。
俺だって、時間さえあれば子供の面倒を見たかった。
時間さえあれば・・・

そうやってたくさんの言い訳を並べて全てを押し付けた。
心春が前の男を愛したままだということにも気が付かずに・・・
しかし、驚くべきはそれに対して一切嫉妬がないということ。
初めから心春とはビジネスな結婚だったのだから。

こんな時に、翠ちゃんの顔を浮かべてしまう・・・
会いたいな・・・もう一度あの子に・・・


離婚が成立し、戸籍にバツがついたものの俺はもう一度「独身」に戻れたことにウキウキしている。
家庭を顧みなかった俺に非があったとはいえ、不倫をした妻が一番の悪なわけで同情や共感をしてくれる人が多かった。
そして、俺の行く末を親戚中が心配しことあるごとにお見合い写真を持ってくる。
いや、お見合いで大失敗してるのだから勘弁して頂きたい。
どんなに綺麗な仮面をかぶっていようが、肩書きを持っていようが中身はバケモノかもしれない。
その本性が出会ってすぐに分かるはずない。
かつて付き合ってきた歴代の彼女たちもみんなそうだ。
俺が好きというよりも、俺のことを好きな自分が好きな気の強い女ばかりだった。

でも、翠ちゃんだけは違う。
俺は確かにときめいて、ちゃんと恋をしていた。ちゃんと。
本気で大切にしたくて、愛しくてずっとそばにいたいと思った。


翠ちゃんはあの男と今どうなっているのだろう。
そればかりを考えた。

もう会わない約束をしたのに、その約束を破りたくなる。


「今泉さん・・・先日はありがとうございました。今度、私の職場の上司も含めてゴルフへ行きませんか?」

翠ちゃんのお父さんは快く快諾した。
直接二人きりで会うわけではない。あくまでお父さんとゴルフに行くだけ・・・怪しまれないように、他の人も誘って、ゴルフを楽しみたいだけ・・・ただそれだけ・・・

当日は、翠ちゃんのお父さん(今は今泉さんと呼んでいる)を自宅まで迎えに行ったが、残業で夜遅く帰ってきた翠ちゃんはまだ寝ていると言っていた。とはいえ現在の時刻は朝7時のため寝ているのは当然だ。

「ついに僕、離婚しまして・・・」

まるで笑い話のように話すと、今泉さんは驚いていた。
会社の上司と、今泉さんの友人という組み合わせにも動じずこんな話をしてしまう自分は図々しいが、これで一笑いとってこの車内を明るくできるならいいネタだ。


「顔よし、性格良し、仕事もできる杉原が奥さんに逃げられたって会社で大騒ぎになったもんな。」
と、笑い出す上司とは裏腹に

「そうだったんだな。大変だったね。」と優しく同情する今泉さんは翠ちゃんによく似ている。
真面目でまっすぐな人だ。

「いや~~参りますよね。この歳で家で一人だと寂しくて友達もみんな家族いますからね~ついついゴルフに行きたくなっちゃって~」
とヘラヘラしてみる。

「翠ちゃんは、彼氏連れてこないの?」
今泉さんの友人は、今泉さんに問う。

「いいや、彼氏がいるのかも話してくれないんだよなー。」

(その彼氏を俺は知っている。)

「俺はてっきり杉原くんと付き合ってるものだと思って安心してたんだけどなーやっと孫の顔が見られるって」

「あはは。でも、俺は翠ちゃんとお付き合いしたいです。」

車内が一気に盛り上がる。
その話は、それ以上発展しなかったがゴルフ終了後の温泉で、今泉さんはその話を掘り返した。

「俺は、失敗を知らない人よりも失敗を糧にできる人の方が好きなんだよね。
だから、君は一度離婚を経験しているから周りから何か言われてしまうことがあるかもしれない。もちろん、手塩にかけた娘だから初婚の男を望むけれど、もう、同じことは繰り返さないだろう?もし、翠が悲しむようなことがあれば俺は許さないけれど、君がそんな男にはとてもじゃないが見えないんだ。
こうやって、こんなおっさんとゴルフにも行ってくれるし…
翠の気持ちを尊重したいが、俺は君みたいな人と結婚してほしいと思ってるよ。さっきの言葉が嘘じゃないならね。」

そう言って俺の背中をポンと叩いた。

「嘘ではありません。本気です。」

「そうか、じゃあまた翠と話をしてみるよ。」

「はい、よろしくお願いします。」

閉ざされた暗い場所に、光が差し込んだ。
翠ちゃんを俺のものにできるかもしれない…


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