Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜
勢いに任せて翠ちゃんにあんなことを言ってしまった俺が情けなくて一日仕事に身が入らなかった。
今別居中の身でありながら、不倫された側の夫の立場でありながら、不倫相手の男に怒りを微塵も感じなかった俺が恐ろしく思う。
所詮、親同士が決めた結婚。親の顔を立てるためだけにしたこと。
きっと心春もそう思っているはず。
なんとなく俺たち夫婦は生い立ちが似ていたのだ。
どんなに親が嫌いでも、結局は絶対的存在で逆らうことはできない。
利益を得られるほう選択する。
そうやって生きてきた。
本当は不倫されたかわいそうな夫を演じて、落ち込んでいるふりをするべきなのにで、俺は、「恋」をしている。
年下で、まだ男に抱かれたことがないと言い張る純粋で一生懸命仕事を頑張っている女の子に。
(割と本気なんだよ・・・)
もう二度と会えないと思ったはずなのに、あんな悲しい顔をさせてひどいことを言ったことを時が経てばたつほど猛省する。
翠ちゃんの中で「最低な男」とレッテルを貼られれば全ての諦めがつくはずなのに、それを取り消したい俺は翠ちゃんのことが好きで、翠ちゃんに嫌われたくないと思っている証拠だ。
気がつけば、翠ちゃんの会社へと向かっていた。あれほど連絡を取り合っていたのだから定時からどれくらい残業をするのかはある程度は把握している。
仕事を終えた翠ちゃんを呼び止めたが、目があってもそらされ逃げられた。
この反応は予測済み。だからと言ってこの先をどうすればいいかも一切考えることもできない。
普段は冷静に物事を考えるし、いい大人のくせに本能のままに動いてしまった俺が恥ずかしい。
まるで子供みたいだ。このまま追いかけなければ二度と会えない気がして・・・
「ちょっと待って・・・」
そう言って翠ちゃんの細い体を抱き寄せた。最後に女を抱いたのはもちろんのことながら妻である心春。
永遠の愛を誓ったはずなのに、平気で俺は裏切る。
だって、先に裏切ったのはそっちの方だ。初めから「愛」なんて存在していなかったけれど。
「昨日は・・・あんなひどいこと言ってごめん・・・少し話できる?」
「こちらこそすみませんでした。でも嘘じゃなくて本当なんです。今まで何人かと付き合ってきたんですけれど、痛くてできなくて・・・そこから・・・」
「そうだったんだ。勇気出して教えてくれたのに本当にごめんね。」
もう一度、優しく抱きしめる。
(もうダメだ・・・)
翠ちゃんを好きという心の奥底の感情が表に出てきてしまった以上。もう蓋をして閉じ込めることなどできない。
このまま翠ちゃんを抱きしめて、この甘い香りに溺れていたい。
「翠・・・この男誰?」
この夢のような時間はあっけなく終わっていく。
そう言った男が、俺を押しのけて、翠ちゃんを強引に抱き寄せた。
「何か用ですか?俺の彼女に・・・」
よくテレビで出てくるような人気俳優のような風貌でありながら、猫のように威嚇をされると俺も一緒になって威嚇するのはなんだか大人気ないと冷静を装う。
「翠ちゃん、どういうこと彼氏なの?」
翠ちゃんは、確かに彼氏はいないと言っていた。今までやりとりが全て嘘だというのなら最強の魔性の女に恋をしてしまった自分が恐ろしくなる。
そう思いながらも、翠ちゃんを他の男に取られてしまうのは納得が行かない。
「残念でしたね。翠の処女は俺が頂いてますので。」
「ちょっと・・・何言ってんの?」
翠ちゃんは、少し怒った様子で言い返す。
「やっぱり嘘だったんだ。」
俺はなぜか、気の抜けた声で言う。
(そうだよね。所詮不倫なんて上手くいくことはない。現実見ろって話)
俺の言葉に返答することもなく二人は、その場を走って逃げていった。
翠ちゃんにはあれぐらい、若くて純粋な男の方がふさわしい。
そう思い込んでみては、自分のものにならない悔しさが襲う。
(心春と別れて、翠ちゃんと生きたい・・・)
それが俺の本心だった。
久しぶりに連絡をした心春は、俺の存在の大切さに気がついただろうか。
俺なしじゃ生きていけないと思ってくれているだろうか。
不倫したことを後悔しているだろうか。
「もしもし?」
電話口の心春の声のトーンが高い。それだけで確信がついた。
(俺は、もう必要ない。)
二人で待ち合わせて、久しぶりにあった心春は数日前と変わり果てるほど生き生きしていて出会った頃の姿だった。
最後に見たときの髪の毛は、出産前の最後の美容院から半年以上経っており、耳のあたりまで黒くなっていてたはずだが、根元から綺麗にカラーされていて、化粧もしっかりしていて終始笑顔だ。
(こんなに綺麗だったっけ・・・)
久しぶりにあった息子は俺の顔なんて覚えていないのか、俺と目があった途端に火がついたように泣き出したが、心春が笑顔で抱いて優しく揺さぶればすぐに泣き止んだ。
俺の知らない間で、心春は母親になっていた。考えてみれば俺なんて数えきれるくらいにしか抱っこをしたことがないし、おむつやミルクも数回だけだ。自殺をしようと思うくらいに追い詰めてしまった自分が情けない。
「今までごめんな・・・」
「いくら謝ってももう遅いから。」
心春は再度離婚届を机の上に置いた。
「親権は私がもらう。争うなら弁護士たてて」
「俺の子じゃないんだろ・・?」
確実ではないけれど、聞いたときにどんな反応をするのかが気になった。
心春は、表情を変えずに。
「分からない・・・でも、はっきりさせるつもりもない。」
と言った。少しは否定すると思ったのに。
「はっきりさせなきゃ、養育費の問題とかもあるだろう。」
「そうだけど、私はあなたからお金をもらおうとは思わないし、この子は絶対に渡さない。あとは弁護士経由して話しをしましょう。」
俺は、ため息をついて離婚届に記入をした。
この女は何をどう言おうが、意思を曲げずに自分の思い描いた通りに周りを進めて行くのだから、反論するだけ無駄だった。
そして、もう俺は心春を愛してなどいない・・・
お互いを分かり合う前に、分かろうともしなかった。
「今まで、仕事ばっかりでごめん・・・ありがとう」
俺がそう言うと、心春の顔が一気に明るくなった。
待ち望んでいたような態度を取られるとこちらとしても腹立たしい。
所詮、俺たちはこれだけの関係だった。
今別居中の身でありながら、不倫された側の夫の立場でありながら、不倫相手の男に怒りを微塵も感じなかった俺が恐ろしく思う。
所詮、親同士が決めた結婚。親の顔を立てるためだけにしたこと。
きっと心春もそう思っているはず。
なんとなく俺たち夫婦は生い立ちが似ていたのだ。
どんなに親が嫌いでも、結局は絶対的存在で逆らうことはできない。
利益を得られるほう選択する。
そうやって生きてきた。
本当は不倫されたかわいそうな夫を演じて、落ち込んでいるふりをするべきなのにで、俺は、「恋」をしている。
年下で、まだ男に抱かれたことがないと言い張る純粋で一生懸命仕事を頑張っている女の子に。
(割と本気なんだよ・・・)
もう二度と会えないと思ったはずなのに、あんな悲しい顔をさせてひどいことを言ったことを時が経てばたつほど猛省する。
翠ちゃんの中で「最低な男」とレッテルを貼られれば全ての諦めがつくはずなのに、それを取り消したい俺は翠ちゃんのことが好きで、翠ちゃんに嫌われたくないと思っている証拠だ。
気がつけば、翠ちゃんの会社へと向かっていた。あれほど連絡を取り合っていたのだから定時からどれくらい残業をするのかはある程度は把握している。
仕事を終えた翠ちゃんを呼び止めたが、目があってもそらされ逃げられた。
この反応は予測済み。だからと言ってこの先をどうすればいいかも一切考えることもできない。
普段は冷静に物事を考えるし、いい大人のくせに本能のままに動いてしまった俺が恥ずかしい。
まるで子供みたいだ。このまま追いかけなければ二度と会えない気がして・・・
「ちょっと待って・・・」
そう言って翠ちゃんの細い体を抱き寄せた。最後に女を抱いたのはもちろんのことながら妻である心春。
永遠の愛を誓ったはずなのに、平気で俺は裏切る。
だって、先に裏切ったのはそっちの方だ。初めから「愛」なんて存在していなかったけれど。
「昨日は・・・あんなひどいこと言ってごめん・・・少し話できる?」
「こちらこそすみませんでした。でも嘘じゃなくて本当なんです。今まで何人かと付き合ってきたんですけれど、痛くてできなくて・・・そこから・・・」
「そうだったんだ。勇気出して教えてくれたのに本当にごめんね。」
もう一度、優しく抱きしめる。
(もうダメだ・・・)
翠ちゃんを好きという心の奥底の感情が表に出てきてしまった以上。もう蓋をして閉じ込めることなどできない。
このまま翠ちゃんを抱きしめて、この甘い香りに溺れていたい。
「翠・・・この男誰?」
この夢のような時間はあっけなく終わっていく。
そう言った男が、俺を押しのけて、翠ちゃんを強引に抱き寄せた。
「何か用ですか?俺の彼女に・・・」
よくテレビで出てくるような人気俳優のような風貌でありながら、猫のように威嚇をされると俺も一緒になって威嚇するのはなんだか大人気ないと冷静を装う。
「翠ちゃん、どういうこと彼氏なの?」
翠ちゃんは、確かに彼氏はいないと言っていた。今までやりとりが全て嘘だというのなら最強の魔性の女に恋をしてしまった自分が恐ろしくなる。
そう思いながらも、翠ちゃんを他の男に取られてしまうのは納得が行かない。
「残念でしたね。翠の処女は俺が頂いてますので。」
「ちょっと・・・何言ってんの?」
翠ちゃんは、少し怒った様子で言い返す。
「やっぱり嘘だったんだ。」
俺はなぜか、気の抜けた声で言う。
(そうだよね。所詮不倫なんて上手くいくことはない。現実見ろって話)
俺の言葉に返答することもなく二人は、その場を走って逃げていった。
翠ちゃんにはあれぐらい、若くて純粋な男の方がふさわしい。
そう思い込んでみては、自分のものにならない悔しさが襲う。
(心春と別れて、翠ちゃんと生きたい・・・)
それが俺の本心だった。
久しぶりに連絡をした心春は、俺の存在の大切さに気がついただろうか。
俺なしじゃ生きていけないと思ってくれているだろうか。
不倫したことを後悔しているだろうか。
「もしもし?」
電話口の心春の声のトーンが高い。それだけで確信がついた。
(俺は、もう必要ない。)
二人で待ち合わせて、久しぶりにあった心春は数日前と変わり果てるほど生き生きしていて出会った頃の姿だった。
最後に見たときの髪の毛は、出産前の最後の美容院から半年以上経っており、耳のあたりまで黒くなっていてたはずだが、根元から綺麗にカラーされていて、化粧もしっかりしていて終始笑顔だ。
(こんなに綺麗だったっけ・・・)
久しぶりにあった息子は俺の顔なんて覚えていないのか、俺と目があった途端に火がついたように泣き出したが、心春が笑顔で抱いて優しく揺さぶればすぐに泣き止んだ。
俺の知らない間で、心春は母親になっていた。考えてみれば俺なんて数えきれるくらいにしか抱っこをしたことがないし、おむつやミルクも数回だけだ。自殺をしようと思うくらいに追い詰めてしまった自分が情けない。
「今までごめんな・・・」
「いくら謝ってももう遅いから。」
心春は再度離婚届を机の上に置いた。
「親権は私がもらう。争うなら弁護士たてて」
「俺の子じゃないんだろ・・?」
確実ではないけれど、聞いたときにどんな反応をするのかが気になった。
心春は、表情を変えずに。
「分からない・・・でも、はっきりさせるつもりもない。」
と言った。少しは否定すると思ったのに。
「はっきりさせなきゃ、養育費の問題とかもあるだろう。」
「そうだけど、私はあなたからお金をもらおうとは思わないし、この子は絶対に渡さない。あとは弁護士経由して話しをしましょう。」
俺は、ため息をついて離婚届に記入をした。
この女は何をどう言おうが、意思を曲げずに自分の思い描いた通りに周りを進めて行くのだから、反論するだけ無駄だった。
そして、もう俺は心春を愛してなどいない・・・
お互いを分かり合う前に、分かろうともしなかった。
「今まで、仕事ばっかりでごめん・・・ありがとう」
俺がそう言うと、心春の顔が一気に明るくなった。
待ち望んでいたような態度を取られるとこちらとしても腹立たしい。
所詮、俺たちはこれだけの関係だった。