Bloody wolf
後で、響にメールアプリ送っててみるか。

どんな反応が帰ってくるか想像できるけどな。


車窓からすっかり日の落ちた景色にぼんやりと目を向けた。

闇に浮かぶネオンが、街が眠っていないことを教えてくれる。


これから俺達の時間が始まろうとしていた。

最近新しく出来たチームがうちの島を荒らしてるって情報が入ってる。

今日はそいつらに、ここが誰の物だか教えてやらねぇとな。


チームの連中は、俺達の到着を今か今かと待ってる事だろう。

響に会えたからって、浮かれてばかりは要られねぇ。

気を引き閉めて掛からなきゃ足元をすくわれかね無いからな。


チームウルフの全ては俺の肩に掛かってる。

無駄な血を流させる事も、無駄に戦力を無くすこともしたくねぇ。


正面に向き直り、ポケットから煙草を取り出して火を着けた。


ジジッと音がして、紙の焦げた臭いが広がった。

吐き出した紫煙は薄く開けた窓から外へと流れていく。


そう言えば、響と居ると煙草を欲しいとも思わなかったな。

あいつと話すのが楽しくて夢中になってた。


人を好きになるって言うのは、こう言うことなんだな。

人間らしい感情が、俺の中にまだ残ってた事に嬉しさを覚えた。


赤谷組の跡取りとして育てられ、チームを旗揚げして総長になって。

俺はずっと感情を押し殺してきた。


それが当たり前で、感情なんて邪魔なものだと思ってきたけど。

響を思う感情は悪くねぇと思えた。


非情になり続けてきた俺のオアシス。

響は、きっとそうなる。


あいつが側にいたら、無敵になれんじゃねぇかと冴え思う。

守るものが出来たら弱味になると何時だって思ってきたけれど、守るものが出来たからこそ強くなれるのかも知れねぇ。


響をまだ手にも入れてねぇ俺が、偉そうに語る様な事でもねぇな。

自嘲的な笑みを浮かべて、最後の紫煙を吐き出した。




「晴成の今の顔、俺はすごくいいと思います」

ちらりと目があった秋道は嬉しそうに言う。

「ああ。俺も今の俺は嫌いじゃねぇ」

クククと笑って吸い終わった煙草を灰皿に押し付けた。


飄々とした響の顔を思い出す。

あれは俺のだ。

きっと、そうなる。
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