幸せの足りないクリスマス アイムノットドリーミングオブアホワイトクリスマス
 クリスマス当日。
「瀬古くん、よろしくね」
 四季が頼んだ相手は瀬古和博という名前だった。部活の都合で店に来たのは午後四時半をすぎたころだが、時間としては悪くない。
 瀬古は正和に負けないくらい背が高かった。小柄な四季と並ぶと同い年とは思えぬほど身長差がある。がっしりとした体つきで演劇よりもスポーツをやっていそうな感じだ。
 顔はまあまあ。
 美少年の四季が近くにいるためか、どうしても見劣りしてしまう。短めの髪がいっそう運動選手を連想させた。
 家の方で着替えてもらう。やけにデフォルメされたトナカイの着ぐるみだ。
 みなとが想像したものと違い、角が小さかった。
 まあ、このほうが邪魔にならないわね。
「トナカイさんだぁ」
 着ぐるみ姿の瀬古がホールに出るとテーブル席にいた児童サッカークラブの子供たちが声を上げた。カウンター席のカップルもトナカイを見ている。
「ね、呼んでよかったでしょ」
 四季がそっとささやく。
 みなとはうなずいた。
「そうね」
 注文と配膳をしおりと四季に任せ、みなとは調理に専念する。ときおりホールから子供たちの歓声が聞こえた。この日ばかりはカントリーミュージックもアイルランド人シンガーの歌もホールから漏れ聞こえない。
 ……正和もいたらよかったのに。
 不意にそんな思いにかられる。
 本当にどうしようもない人、とみなとは心の中でつぶやく。
 そんなに写真が大事なの?
 私より?
「……バカ」
 料理するては止めず、みなとは去年の自分たちを懐かしむ。
 パスタを茹でながら、正和が湯を煮こぼしたのを思い出す。ゆであがったパスタをソースと絡めつつ、せっかく盛りつけたパスタをうっかりひっくり返してしまう正和を……。
 もしかして、いなくて正解?
「はぁ?」
 突然、ホールから四季の大声が聞こえた。
 
 
 
< 3 / 6 >

この作品をシェア

pagetop