課長の瞳で凍死します ~羽村の受難~
羽村は雪乃を送って彼女の自宅まで来ていた。
豪邸だな、と思い、見上げた屋敷の前の塀から、大きく枝を張ったユズリハが見えた。
「私が産まれたときに父が植えてくれたあの木、おじさんも大事にしてくれているんですよ。
決して掘り返さぬようにと、庭師の方にも命じられて」
と言う雪乃に、暗闇の中の大きなそれを見上げ、羽村は呟く。
「それは……いい話なのかな?」
それとも―― と思ったとき、灯りのついていた玄関が開き、質の良いスーツを着た落ち着いた風貌の男が現れた。
これが噂のおじさんかな、と思って見る。
案の定、雪乃がおじさん、と呼んで、男に笑顔で駆け寄っていた。
ぺこり、と羽村は頭を下げる。
雪乃の伯父、隆雄は、こちらに出て来ながら、渋い顔をしていた。