夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫


「ガゼント様…なぜ?」

ここはどこだろう?
真っ暗闇の中、なぜか明かりが無くても辺りは見えて椅子のようなものに座らされたミレイアは拘束されてなくても動けないでいた。

背中を見せていたガゼントが徐に振り返るとその首元にはあのグラージャのブローチが輝き、赤かった彼の目は黒へと変色していた。

「なぜ、お前達を裏切ったのか聞きたいか?」

ククククと笑うガゼントは声も表情もまるで別人だった。
オパールのブローチをしているということはグラージャが乗り移っているのだろう。
薄ら笑いを浮かべるその顔は不気味でダンスを踊った時の魅惑的な微笑みはどこにもなかった。

「ガゼントは私と契約をしている。それは私自身が契約を破棄しなければ永遠と遂行される。例え私が消滅してもな。ガゼントが私を裏切ることはできないのだよ?」

コツコツと靴を鳴らし近付いてくるガゼント、いや、グラージャが恐ろしくて逃げ出したいのに動けない。

眉根を寄せるミレイアの顎を捕らえ間近で左右で色味の違う紫の瞳を見つめたガゼントはニヤリと悪魔のような笑みを見せ恐れ戦く。

「美しい瞳だ。ガゼントが気に入るのも頷ける。お前が私の呪いを受け継いだ娘なのだろう?よくあの雲に打ち勝ったと褒めてやろう」

「え…?」

ミレイアの右目に残る赤い名残り。
ヴァルミラが掛けたと思われていたあの呪いはグラージャのものだったとつい最近知った話だ。

「あの雲は術者である私の領域を超え力を付け過ぎた。暴走したお陰で私の復活までも押さえ込まれていたのだ。お前が封印してくれたお陰でやっと私は動くことが出来た」

「え?それって……随分間抜けですね?」

「ああっ!?」

「自分で掛けた呪いを自分で押さえられないなんてとんだ間抜けだとモリーが言っていたわ」

恐怖を忘れきょとんととしたミレイアは昔モリスデンが簡単な魔法を教えてくれたときによく言っていた事を思い出す。

痛いところを突かれわなわなと震えるグラージャは顔が真っ赤だ。

「この小娘……!」

「ガゼント様…いいえグラージャ、なぜ今さら復活したいんですか?ずっと眠っていれば良かったものを」

調子を取り戻したミレイアは言いたい放題。
ぷくっと頬を膨らませ怒っている。
ピキッと青筋を立てながら余裕の笑みを見せたグラージャ。

「言わせておけば……私が復活した暁にはこの世界をぶっ潰し魔物の世界を作るのさ。人間など魔物達の餌にしてやる」

「えー?!グラージャは人間を食べるの!?」

「む…!私は食わん!」

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