夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫
運命に翻弄されてきたラミンと我が愛娘ミレイアの姿を悔しい思いで見つめるアルトバル国王。

また、私は何もできずに見ているだけなのか?

ギリリと奥歯を噛み締め剣を握り直したアルトバル国王はグラージャを見据え走り出した。

「ちっ、父上!」

ギョッとしたセイラスは父の後を追い走り出す。

何もできなくてもこの手でミレイアを助けグラージャに一矢報いたい。
その想いだけでアルトバル国王はグラージャ目がけて剣を振り下ろした。

グラージャを捉えたかに見えた剣はすり抜け何か小さなものに当たる手ごたえだけを感じて地面に突き刺さる。

「ふん、人間如きが私に刃向えると思うのか?クリスリード」

グラージャが呼び間違えるほどアルトバルはクリスリードに似ている。
ふつふつと怒りが沸き起こりギロリと睨んだグラージャに一瞬怯んだアルトバル国王はそれでもミレイアだけはと目をやる。
ミレイアはラミンの姿を捉えたまま呆然としていた。

「わが娘を返していただこう」

剣をもう一度グラージャに向けひと呼吸置いたさなか、不敵に笑ったグラージャの手からミレイアはスッと解き放たれ前のめりになった。

「ミレイア!」

追いついたセイラスがミレイアを抱き留め、自由になったと気が付いたミレイアはラミンの元へ駆けようとする。

「ミレイア!ダメだ!ラミンに近付けない!」

「はっ、離してお兄さま!ラミンが…!」

今も苦しい息をゆっくり吐きながら呆然と立っているラミンに駆け寄りたくて暴れるミレイアはまたしてもセイラスに抑え込まれ動けなかった。


『なぜだ…』

自分手を見つめ呟くグラージャ。
先ほどまでの漲る魔力が消えていき自分の姿までもが半透明になり消えようとしていた。

事の成りを間近で見ていたアルトバル国王も何が起こったのか分からず唖然と見ていた。

「もう潮時じゃ」

スッと横に現れた白銀の長い髪、白いドレスに身を包んだ彼女はグラージャに片手を向けていた。
消え入りそうな姿でギロリとその者を睨むグラージャ。

『ヴァルミラ!貴様…!』

「力尽きましたな、グラージャ様」

その反対からはガゼントが同じく片手をグラージャに向け立っていた。
ピキッと今度ははっきりと音がする。
それはグラージャの胸元で輝いていたオパールのブローチがひび割れる音だった。

「あなたの怨念が凄まじかったゆえに2000年もの時を有してしまいました」

「ガゼント…貴様図ったな!?」

「いいえ、私はグラージャ様を静かに眠らせてあげたい。ただそれだけですよ」

知れっと言い放つガゼントはこの時を待っていた。

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