夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫
「えっ!?」

駆け寄ってきたモリスデンが驚愕の目でヴァルミラを見ていた。
目を細めモリスデンを見てわずかに笑ったヴァルミラは手に小さな光を湛えた。
ガゼントも同じように手に光を宿す。

「ふん、潮時か…そうかもしれん。私も疲れた。お前を追い求めるのは止めるとしよう」

「グラージャ…」

ぽつりと呟いたミレイアにガゼントは伏し目がちに目を合わす。


「娘、苦しめて悪かったな。どんなに叩きのめしても這い上がってくるお前ら人間どもを脅威に思っていた。お前らの強い信頼と愛情が私は怖かったのかもしれぬ。私もただの人間として生まれてみたかったな…」

力などいらない。ただ愛し愛される普通の幸せが欲しかった。。。

「次に生まれてくるときはきっと愛されるべき人間になれるでしょう。あなたにはその資格があるはずです」

「…そうだといいな…」

しっかり顔を上げたグラージャ。
屈託ない優しい笑顔がそこにはあった。

「我らが安らかな眠りに付けるようお手伝いいたします」

「あの世でこってりと説教してやるから待っておれ」

ガゼントとヴァルミラの手からまばゆい光が放たれた。
グラージャは安らかな微笑みを湛えたまま消えていく。

パリンッ!とオパールのブローチが粉々に割れ風化するように風に煽られて消えていった。


「消え…た」


セイラスがぽつりと言ったその刹那
ゴゴゴゴゴッっと地響きのように地面が揺れた。

異変に気付き後ろを振り向いたミレイアとセイラスはラミンから異様な力が放出されているのが見えた。

「何だあれは!」

「ラミン!」

毛が逆立ち、意識が無いように見えるラミンの周りには黒い風が渦巻き煽られた小石がラミンにぶつかり傷を負わせる。

「いかん!暴走しかけておる!」

モリスデンが叫び何とか抑えようと魔法を飛ばすが何も効かない。
キースが言っていた夢見の予言が当たろうとしている。

「ラミンに秘められたアドラードの力じゃ。生死を彷徨い最後の足掻きがアドラードの力を呼び覚ましたのじゃ。しかしこの力は容易に制御できるものではない。我ら魔法使いが3人寄っても抑えられるかどうか…」

人間との間に出来たアドラードはなぜかヴァルミラよりも力が強かった。
その力はラミンにそのまま受け継がれ暴走しようとしている。
くっと奥歯を噛み締めたヴァルミラは我が息子の力が暴走するのを間近に見て冷や汗が出る。

「ごちゃごちゃ言ってる場合じゃないだろう!とにかく力を抑えラミンを正気に戻すのだ!」

「分かっておるわ!」

ガゼントの叱責に気を引き締めたヴァルミラはガゼントとモリスデンの力を合わせラミンに向けて放出する。

さすがの異変に残りわずかとなっていた魔物たちも人間たちもラミンの作る黒い渦を凝視していた。






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