ダイエットはまた今度
「あたしダイエットする!」
 夕食時、あたしはみんなの前で宣言した。
 テーブルには五人分の食事がある。今夜はカレーライスにレタスとタマネギとトマトのサラダ、それに唐揚げ。今週は妹の冬ちゃん(冬美・ふゆみ)が食事当番だから普段より料理が美味しい。春姉(春香・はるか)や夏姉(夏菜・なつな)には申し訳ないけど、やっぱりあたしは冬ちゃんの作ってくれた物が一番好き。
 テーブルは八人掛けで五人で使うとちょっと寂しい。北側のキッチンに近い側に左から社会人二年目の風間家長女の春香、次女で大学二年生の夏菜、反対側に三女で高校一年生のあたし(秋穂)、同級生で義兄の四季、中学二年生の冬美と並んでいる。
 室内には大型の液晶テレビがあって動物番組をやっていた。お笑い芸人がワニにお肉を与えようとしている。おっきなお肉だ。あたしがワニの立場だったら間違いなくパクッといってる。
 その映像がぱちんと消えた。
 春姉がテレビのリモコンを握っている。
 艶やかな長い黒髪を後ろで束ねている。にこやかな顔は綺麗というよりかわいらしい。左目の下のほくろが印象的だ。
 微笑んでいるせいで目が細くなっている。
「秋ちゃん、もう一度言ってくれる?」
「えっとね、ダイエットするの」
「無理だな」
 速攻で返したのは夏姉だった。
「どうせしくじるのがオチだ」
 ふわりとした黒髪のおかっぱ頭。太い眉に厳しそうな目が黒眼鏡の奥で光っている。春姉と異なりこちらはクールビューティーって感じ。
「うーん、夏ちゃんはもうちょっと言葉を選ぼうね」
「春姉は甘すぎ。こいつ、うちのルールを軽く見てるんだよ」
「あたし本気だよ」
「だとしたら余計にたちが悪い。私たちのことも少しは考えろ」
「あのぅ」
 恐る恐るといったふうに四季が片手を挙げた。
「話がよく見えないんですけど。ルールって何ですか」
「お義兄ちゃん……そっか、知らないんだっけ」
 と冬ちゃん。黒髪のツインテールのお人形さんみたいに愛らしい。目立ったほくろもないし、目もきつくないし、あたしのようなそばかすもないし……成長したらこの子が一番美人になると思う。
「ん? 何なんです?」
「お前は秋穂から聞いてないのか」
「だから、何の話なんです?」
「あきれた奴だな」
 夏姉が嘆息する。
「まあまあ、四季くんもこの機会に憶えるってことでいいじゃない」
「だから何を」
「うちではダイエットは全員参加なんだ」
「はい?」
 意味がわからないって顔で四季があたしを見る。
 そんな四季もなかなか捨てがたい。
 スマホで撮りたい。
 けど、今はそんな雰囲気じゃない。
 春姉はにこやかだけど目が笑ってないし、夏姉はあからさまに不機嫌。冬ちゃんは否定的なことを言ってないけど何となく嫌なのかなって思える。
 四季はわかっていないから、特別に多数決の数に含めないことにしよう。
 にしても、圧倒的に分が悪い。
 このままだと負けだ。
 あたしは顔の前でぱちんと両手を重ねて頭を下げた。
「お願い、協力して!」
「断る」
 夏姉が即答した。
「えーっ、どうして?」
「自分の胸に手をあててよく考えろ」
「……」
 あたしは言われた通りにしてみる。
 でも、思い当たるフシが見つからない。いや正確にはありすぎてどれのことかわからないと言うべきかも。
 コホン。
 春姉が軽く咳払いした。
「なら、こうしましょう。お試しに秋ちゃんだけで明後日の夕飯までの間間食抜き。それができたらまた考えるってことで」
「本格的にダイエットとなれば全員巻き込まれるってことを忘れるなよ」
 夏姉は本当に厳しい。
 たまには励ましてくれてもバチが当たらないでしょうに。
 
 
 
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