夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 口を解放されたかと思えば、春臣さんがシャツを脱ぎ捨てる。
 そのまま私の膝裏に手を添えた。

「後悔するなよ」

 余裕のない声が私の唇をかすめてから耳へ移った。

「……奈子」

 ぞくりと背筋が震えて、広い背中に縋る。

「愛してる」

 春臣さんはかわいいという褒め言葉は多くても、愛しているの一言は極端に少ない。
 なのに――。

「好きだ。……愛してる」

 私が贈った以上の回数と気持ちを返される。
 きっと私と同じように、百万分の一も想いを伝えきれていないに違いない。
 そんな、切ない響きを帯びていた。

「私も――」
「今は俺の番だろ」

 キスで封じられて、そのまま何も言えないように溶かされる。
 心も身体も、今は全部春臣さんのものだった。
 そしてこれからもそうなるだろうということは分かっている。

(側に、いさせてくださいね)

 抱き締めながら心の中で言う。
 聞こえたはずもないのに、春臣さんは微かに笑ったようだった。

(ずっとずっと、側にいてくださいね)

 答えは聞かなくても分かっている。
 私が望む限り、春臣さんは応えてくれるだろう。
 私たちの本当の夫婦生活はまだ始まったばかりだった――。
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