夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~

「お手伝いをした方がいいのかと思って……」
「……手伝いが必要な歳じゃない」
「年齢は関係ないです。大事なのは経験ですから」
「工程は頭に入っている。……まあ、心配になる気持ちもわかるが」

 できていないのにできていると強がらないだけ、まだいいのかもしれなかった。
 それでも春臣さんは私に手伝わせようとしてくれない。

「せめて包丁は私に使わせてください。指を切りそうで怖いです」
「それだと意味がないんだ」
「……意味?」
「妻にばかり夕飯の支度をさせてはいけないらしい。今までお前にばかり任せて悪かったな。もっと早く気付くべきだった」

(絶対、進さんに言われてる)

 らしい、という伝聞がもうその証拠だった。
 人には向き不向きがあるのだからもう少し考えてほしい――と進さんに対して思いながら、危なっかしく包丁を握った春臣さんをそっと止める。

「奈子、俺は――」
「一緒に作りませんか?」

 これが私にできる精一杯の譲歩だった。
 春臣さんに料理をさせつつ、私自身もそこに関わるという――。
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