夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「……お前がそうしたいならいいが、結局任せることになりそうだな」
「それでもいいんです。夫婦ってそういうものでしょう?」
「そうか?」
「私は他のことをお任せするので、料理は私に任せてくれていいんです」
「任せてもらえるようなものなんてあるか?」
「んー……。社長業はお任せしないとだめですね」
「それはまた別の話だろう」
そう言った春臣さんがちょっとだけ笑う。
今のその姿でその笑みは、眼福を通り越して目の毒だった。
つい目を逸らすと、包丁を置いた春臣さんに腰を抱き寄せられる。
「俺が家でできるのは、妻を甘やかすことぐらいだな」
「それで充分です」
私も春臣さんの背中に腕を回して、ぎゅっと抱き締めさせてもらった。
他人と距離を取りがちなこの人がそうさせてくれるというそのことが、もう特別扱いにほかならない。
「あ、そうだ」
「ん?」
「エプロン姿、かっこいいです」
「……会社でもこれにするか」
「それはちょっと……」
私が笑うと、春臣さんもつられたように笑う。
引き寄せられるようにして背伸びをした。
春臣さんも少し屈んで、唇がそっと重なり合う。
二人で料理をするのは、もう少しだけ後になりそうだった。