夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 笑いながら進さんがコーヒーを淹れに行こうとする。

「あ、私が……」
「いいよいいよ、座っててください」

 あまり粘るのも迷惑になりそうだった。
 渋々座って待っていると、しばらくして淹れたてのコーヒーを差し出される。

「で、俺に何か用ですか?」
「十四時からの取材について確認をさせていただきたいんです」
「あ、なるほど。了解です」

 進さんの接し方は初めて会った時に比べると、だいぶ変わっていた。気安い空気は変わらないけれど。
 私を妻だと言っただけの春臣さんは、それ以上の説明を進さんにしていないらしい。
 私の両親が突然の結婚に驚いていたように幼馴染の進さんも衝撃を受けたらしい。それでも「おめでとう」と言ってくれるのだから、いい人なのだろう。
 取材の予定と、今までどういったことを行っていたかを確認し、淹れてもらったコーヒーを口に含む。
 インスタントではない、ちゃんとした豆の香りがした。

「で……大体こんな感じだけど、大丈夫そうですかね」
「はい、ありがとうございます」
「そ。ならよかった」
「丁寧に教えてくださってありがとうございました。では、失礼しま――」
「もうちょっとだけ付き合ってくれません?」

 嫌とは言わせない、とにっこり笑ったその顔に書いてある。
 正直に言えば抵抗があった。
 別に進さんを警戒しているわけではない。
 単純に男性と一対一で過ごす時間が長くなることを好もしく思っていないだけである。
 仕事だと言って引くか少し悩んだ結果、一応留まることにした。

「……分かりました。ですが、あまり長くは……」
< 49 / 169 >

この作品をシェア

pagetop