夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「奈子の勤め先、超大手なんでしょ? 優良物件もいっぱいだろうし、そこから選んじゃえば?」

 確かに、と周りも一緒になってはやし立てる。
 やれやれと言いたいのを我慢し、みんなに向かって首を横に振った。

「前も言わなかったっけ? すごいのはうちの親会社で、うち自体はちっちゃい会社なの」
「あれ、そうなの?」
「うん」
「なんだ、誰か紹介してもらおうと思ったのに」
「残念でした」

 嘘をつかなくていい時は、心なしか肩が軽くなる。
 みんなに言った通り私の会社自体は普通も普通、いわゆる中小企業というもので、給料だっていいわけじゃない。
 けれど親会社の知名度は段違いだった。

 株式会社クロスタイル。
 ここが運用しているファッション関係の通販サイトは、インターネットを使える人間の九割が利用しているとまで言われている。
 年齢を問わず使いやすいサイト設計に、日本だけでなく海外ブランドまで網羅した商品のラインナップ。しかも本来ならば手が届きにくい商品も手頃に購入できる価格設定。
 最近では不要品の売買まで個人で行えるシステムが実装され、ますますその知名度に拍車をかけていた。
 創設からたった五年。それしか経っていないのに、この日本でクロスタイルの名前を聞いたことがない人間はいない。
 うちも含めた子会社は少しずつ数を増やしており、新規事業に手を出すのではともっぱら評判だ。
 そういえば、先日も最も勢いのある会社としてニュースでまとめられていた。

「ねえ、なんとかしてクロスタイルの社員を集められないの? 合コンとかさ」

 ぎゅっと手を握られながらの懇願に、思考が中断する。
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