夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
・これでさよならなんですか?
 進さんの家に来たのは初めてだった。
 春臣さんと共に迎えられたけれど、私に向けられる眼差しが少し鋭い。

「スパイがいるとしか思えない」

 ソファに座るなり、進さんはきっぱり言い切る。
 その視線は私に向けられたまま。

「あのデザインはデザイナーと関係者数人、俺とお前、それから……奈子さんしか知らない」
「何が言いたい、海理」

 春臣さんが隣に座る私の手を握ってくれる。

「お前の言い方だと――」
「そうだよ。だって、他にいない」

 進さんも苦しそうな顔をしていた。
 首をやんわり横に振って、春臣さんを見つめる。

「おめでたいと思ってた。けど、おかしいじゃないか。俺にだって知らない恋人と突然結婚するなんて。――何か裏があるとしか思えない」
「俺から結婚を提案したんだ」

 手を握る力が強くなる。
 私は何も言えなかった。
 大切なデザインを他社に流すような真似なんて当然していない。
 けれど――。

「私……以前、デザインの資料を総務課に渡しています」

 二人が同時に私を見る。
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