夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「私も好き……ですけど、側にいる資格はないと思うんです」
「俺がいいと言ってるんだからいいだろう」
「私の気が済まないです」
「なんでそう頑固なんだ」

 思い切り溜息を吐かれた。
 なおも言葉を続けようとすると、唇に指を押し当てられる。

「妻と別居は外聞が悪い。その方が迷惑だ」
「もう妻じゃないです」
「妻なんだ。まだ」
「……え?」
「離婚届は出してない。……出せなかった」

 頭の中にいくつも疑問符が浮かぶ。
 ――離婚届を出せなかった?

「どうして……」
「出せば、他人になる。それは嫌だと思ったからな」

 瞬きした弾みに涙が落ちる。

「てっきり、もう出したんだと……」
「あの日、ここで契約について話そうと思っていたんだ。一年以上側にいたかったし」
「いつからそんな……」
「自分でも分からないんだが、多分初めからじゃないか?」
「え……」

 春臣さんが困ったように笑う。
 照れているのだとピンと来た。

「お前はかわいいから」
「……!」

 時々、春臣さんがそんなようなことを言うのには気付いていた。
 けれどまさか、本気で、そういう意味で言っているのだとは思ってもいない。

「私……ハムスターみたいな扱いなんだと……」
「まあ、似ているような気はする」
「……ペットみたいな意味で褒められてるんだと思ってました」
「いや?」

 何を言ってるんだと言いたげな顔で見られる。
 なんだか、脱力した。
 でもそれは私だけはなかったらしい。

「ペットはデートに誘わないだろう。欲しがる物を買ってやりたいとも思わない」
「……買い物好きなんじゃなかったんですか?」
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