夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 自分では到底付けられない位置である。
 もちろん私は誰がそれを付けた犯人なのか知っていた。

「あ、あの、昨日はごめんなさい」
「何が?」

 マグカップをベッド横のチェストに置きながら尋ねられる。
 隣に座った春臣さんが私の頭を引き寄せて、髪にキスをした。

「俺を寝かせなかったことを言ってるなら、謝らなくていい」

 ひい、と引きつった声が出そうになる。
 この人はいつからこんな甘い声を出すようになったのだろう。

「そ、それじゃなくて……背中……」
「うん? ――ああ、これか」

 毛布ごと抱き締められる。

「痕ぐらい気にしない」
「……痛かったですよね?」
「それどころじゃなかったな」

 すり、と春臣さんが私の頬を指で撫でる。

「お前の方こそ痛くなかったか? 初めてだったんだろう?」
「……はい」

 消え入りそうな声――というものを自分が出す羽目になるとは思わなかった。

「無理をさせていないならいいんだが。辛かったら言え」

(昨日より今の方が辛いです……)

 どうして一言喋る間にあちこち撫でたり触ったりしてくるのか分からない。
 まだ身体に残る熱が勝手にその感触を喜んでしまう。

「ほら」

 マグカップを差し出され、すぐに口を付ける。
 そうしていればこの恥ずかしさと気まずさから逃れられるような気がした。
 なのに、春臣さんの攻撃はまだ終わらない。

「平気なら後でまた付き合ってくれ」
「っ!?」

 コーヒーを吹き出しそうになってせき込む。

「な、な、な……」
「どうした?」
「……っ、だめです!」

 流されてはいけないときっぱり断っておく。
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