夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「あ、もしもし、おはよ」

 私の方まで進さんの声が聞こえてきた。
 朝だというのに、妙に声が弾んでいる。

「何だ」
「向こうの会社がやっとスパイの話を認めたよ。早く伝えようと思ってさ」
「……そうか」
「一緒にお祝いしよう。今から迎えに行っていいか?」
「取り込み中だ。来るな」
「は? 何だよ、取り込み中って――」

 ぷつ、と無慈悲な音がして電話が切られる。
 春臣さんは苛立ちを隠さないまま、携帯の電源を切ってソファに投げ捨てた。
 そしてまた私のもとへ戻ってくる。

「もう海理には邪魔されたくないからな」
「大丈夫だといいんですけど……」
「後でいい」

 最初の夜に見た時より、もっと熱っぽい瞳が私を捉える。

「今はお前のことしか考えたくない」

 シーツの擦れる衣擦れが静かに響く。
 時々私の声と、余裕のない吐息が混ざった。
 それも次第に絡んでひとつに溶け合っていく。

 ――私がベッドを出られたのは、その日の夕方になってからだった。
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