夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「お前のそういう所がかわいい」

 耳元で囁かれた挙句、耳朶にキスまでされる。

「最初の夜からずっと思ってた」

 また喉奥から悲鳴が溢れそうになる。
 私がそんな状態だと知っているくせに、春臣さんはやんわり毛布の中に手を入れてきた。

「……朝飯の後でいいかと思ったが、今でいいか」
「だ、だめです……」
「嫌なら抵抗すればいい。お前の嫌がることはしないから」

 壊れ物を扱うようにそっとシーツの上に押し倒される。
 いきなり毛布をはぎ取らないだけ優しかった。

(嫌じゃない……ずっと嫌じゃなかった)

 男の人は苦手だと思っていた。
 この人だけは最初から苦手だと思えなかった。
 最初の夜ですら、続けられていたら受け入れていただろう。
 優しくすると言ったあの言葉が嘘ではなかったと、昨夜知ってしまったのもある。

「春臣さん……」

 最後の抵抗として名前を呼んでみる。
 私に覆いかぶさった春臣さんが少しだけ笑った。

「こういう時に俺の名前を呼んだらどうなるか、昨日教えたつもりだったんだがな」

 強引さとは無縁のキスが降る。
 たった一回のキスで、あっさり私は陥落した。

「また……優しくしてくださいね……」
「ああ」

 きゅ、と指を絡めて手を握り合う。
 再び吐息を重ねようとしたその時――。

「っ、春臣さん、携帯鳴ってます」

 私が言うと、らしくない舌打ちが返ってくる。

「海理か」

 着信音だけで誰からの連絡か分かるらしい。
 私からの着信音も特別なものに変えてもらおうと心に決めた。

「もしもし」

 ベッドを出た春臣さんが苛立たしげに電話に出る。
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