夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 そうでなければ、こんなににこにこ嬉しそうにしているはずがない。

「海理くん海理くん、祖父ちゃん振られちゃったよ」
「俺もこれから春臣を誘っても断られるようになるんでしょうね。寂しいなー」
「もともとお前の誘いはほとんど断ってただろ」

 楽しそうな空気がこちらにまで伝染するようだった。
 改めてそこにいる三人を見る。

(時治さんと海理さんのおかげで、春臣さんと結婚することになった。一時はどうなるかと思ったけど、これからも支えていけたらいいな)

 二人とやり合っている間も、春臣さんは私の手を握り続けていた。私からもそっと握り返し、こっそり顔を見合わせて笑みを交わす――。

***

 夜、二人で家に帰ってくる。

「夕飯をご馳走にならなくて本当によかったんですか? 時治さん、残念そうでしたけど……」
「いい。夕食の間もあれこれ聞かれてたまるか」

(……確かにね)

 時治さんも進さんも、どうして春臣さんがここまで変わったのかを知りたがった。
 何がきっかけで私を好きになったのか、どんな風にプロポーズをしたのか、以前進さんが私にした質問をそのままぶつけてきたのである。
 簡単に答える春臣さんではなく、私に質問を振られた時まで面倒くさそうに対処していた。
 そんなやり取りさえも楽しそうにしていた二人を思い出し、ずっと昔からこうだったのだろう、とほっこりした気分になる。

「ご飯の支度をしちゃいますね。ちょっと待っていてください」
「何かすることはあるか?」

 春臣さんがそう聞いてきたことに笑ってしまう。

「じゃあ、お箸を出してご飯を食べる用意をしておいてください」
「ああ」
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