夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「自分が着るより、春臣さんのタキシードが見たいです」
「俺はお前のドレスが見たい」
「じゃあ……一緒に写真を撮ってくださいね」
「そうだな」

 何度も見るようになった微笑を向けられて、私も同じ気持ちを返す。

「海理くん。やっぱり恋愛ってのはいいもんだな」
「……春臣と付き合い長いですけど、あんな顔初めて見ましたよ」
「うるさいぞ」

 こそこそ話す二人に春臣さんが突っ込む。

「幸せなら何よりだ。そんで、曾孫はいつになる?」

 時治さんがさらりと言う。
 飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

「そんなに待たせる気はしないが、なるべく長生きしてくれ」
「言われなくともそうそう死ぬ気はねえさ」
「けど、そうなると奈子さんの仕事はどうするんだ?」

 進さんが難しい顔をして考え込む。でも、口元が笑っていた。

「今のうちから働き方改革した方がいいかもな。ほら、最近そういうのが流行ってるし。社員からアンケートでも取ってみようか」
「普通に産休を取ればいいと思うんだが」
「ギリギリまでは働かせてほしいです」

 私がいれば、少しは春臣さんの負担も減る。
 書類関係を含め、いろいろと注意しなければならないことも今はちゃんと覚えた。

「何だったらうちに来るかい。ちょうど奈子さんみたいな秘書を欲しいと思ってたとこだ」
「祖父さんにはもう五人ぐらいいるだろ、秘書」

 そう言って、春臣さんが私の肩を抱き寄せる。

「奈子には俺の秘書しかやらせない。スカウトしようとするな」
「心配しなくても私が支えたいのは春臣さんだけですよ」

 冗談なのは分かっている。
 時治さんは春臣さんをいじって遊びたいだけだろう。
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