あの日の空にまた会えるまで。
何故そうなっているのかと聞かれれば自分でも良く分からない。初めて2人きりで映画を観に行ったあの日から、何故か2人で出かけることがちょくちょくとあった。
いつだって奏先輩の気まぐれで、そんなときに偶然自分が奏先輩の近くにいたからその気まぐれが自分に向けられていただけの話なのだろうけど、それでも映画を見に言ったのはあの日から1度や2度ではなく、アイスを食べに行くことも、はたまた公園で談笑するだけということも多々あった。
その間も、瑠衣先輩の存在は常に心の中にある。
瑠衣先輩とばったりと出くわしたのは初めて2人ででかけた映画の日のみだったけれど、瑠衣先輩のことが気にならなかったと言えば嘘になる。
そんな風に奏先輩と2人で出かけることは増えても、2人は変わらず常に側にいたから、だから自分でも何故奏先輩とこんな風になっているのか分からなかった。
奏先輩や瑠衣先輩にとって異性と2人きりで出かけるのは大したことではないのだろうけれど、自分にとって異性と2人きりで出かけるというのは、それはもうデートの括りに入る。それが奏先輩ならばなおさらだ。期待をしてしまうのは自分がまだ子どもだからなのだろうか。期待してはいけない、奏先輩には瑠衣先輩がいるのだからと毎日自分に言い聞かせている。それなのに馬鹿な私は心の何処かではまだ期待していたのだろう。
その期待が無意味なものなのだと思い知ったのはそれからすぐのことだった。
「ーーーあおちゃん、これあげる」
「…なんですか?」
差し出された小さな袋を受け取る。
不思議そうにそれを眺める私に奏先輩が優しく微笑む。
「沖縄のお土産」
「えっ、私に?」
つい先日、奏先輩たち3年生は3泊4日の修学旅行から帰ってきた。1日目2日目は許される限りずっと海に入ってたらしく、奏先輩と顔を合わせたときは肌の焼け具合に少しばかり驚いたのを覚えている。というか、3年生みんな少し焼けた気がする。
「うん。あおちゃんにも買ってきてたから」
「わ、私に…」
「最初からあおちゃんには買うつもりだったし」
そんなこと、修学旅行前に聞いたことなかったのに。
「あ、開けていいですか?」
「どうぞ」
受け取った小さな袋のテープを外し、中身を取り出した。
それを目の前に掲げる。
「わぁ、可愛いっ!」
奏先輩がお土産にとくれたもの、それは沖縄のご当地キーホルダーだった。それも以前会話の中で好きだと言ったことのあるディズニーキャラクター。キャラクターと一緒にぶら下がるのは、小さな瓶。沖縄の海を連想しているのだろうか、小瓶の中には水と砂が入っていて、更には珊瑚らしきものまでゆらゆらと水の中に浮かんでいる。