あの日の空にまた会えるまで。


第三者から見て、やはり奏先輩はそう見えるのだろうか。私が勝手に自惚れてただけなのに。

「葵は自分が勘違いしてただけって言うけど、普通に考えて奏先輩が葵にしたことは最低なんだからね」
「でも」
「でももクソもない。自分が勘違いしてただけだって本気で思うなら絵馬に書きなよ。はやく新しい恋ができますようにって。勘違いした恋をいつまでも引きずってないで、早く次行ったほうがいいよ」
「……」
「ただでさえ大した会話もなく終わったんでしょ?気付かれてたとしても葵は気持ちを伝えることもしなかったわけじゃん。自分の中で消化することもできなかった恋を、どうやって終わらせんのさ。次行きな次!」

そんな会話を繰り広げながらも、できた!と絵馬を掲げた真央。

そこには「今年も元気に過ごせますように」とすごく普通な文が可愛く書かれていた。思わず呟く。

「真央も普通じゃん…」
「私は恋してないからねー。受験生でもないから目指すものもないし。とりあえず元気に過ごせたらそれでオッケー」

満足げに絵馬を眺める真央と違い、一文字も書けない私は絵馬を見つめる。別に新しい恋がしたいわけじゃないけれど、真央の言う通りだと思った。

私、終わりにするとだけ告げて逃げたんだ。

奏先輩の言葉を聞きたくなくて。

これ以上謝罪の言葉を聞きたくなくて。

好きなのにこの気持ちすら伝えることができなかった。引き止めようとする奏先輩の言葉に耳を向けず、会話もせず、気持ちも伝えられず、ただ背を向けた。なんの決着もつけれていないこの恋を、真央の言う通りどうやって自分の中で消化できるというのだろう。

たしかに大人になれば若かりし頃の思い出として記憶には残る。けれど思い返したとき、後悔するのではないだろうか。あの時気持ちを伝えられたら。最後の会話ができていたら。もしかしたら終わりの時くらいはきちんとすれば良かったと苦い思い出になってしまうのかもしれない。

「……ねぇ、真央」
「んー?」
「3年生は、3月で卒業だよね」
「あー…そうだね」
「1年生は卒業式には出ないんだよね」
「うん、2年生が出るじゃん」
「そしたらもう、会えなくなるよね」
「うん」
「……そっか」

そう言って、私はペンを握り締めた。

聞くだけ聞いて絵馬に字を書き始めた自分に真央は首を傾げたけれど、書き終えた絵馬を見つめる自分に真央は笑う。


ーーー今年も健康に過ごせますように。


「普通じゃん」
「うん。私も受験生じゃないから目指すものないし」
「ふーん」
「……直接言うよ」
「直接?」
「冬休み終わったら奏先輩に会いにいく。ちゃんと終わらせてくる」

奏先輩の話も聞いて、気持ちも伝えて、ちゃんと消化しよう。きちんと、自分の中で終わりを迎えてあげよう。


満足げに微笑む自分に真央はまた笑った。



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