擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 各部署はもちろん給湯室や廊下、トイレに至るまで、全部を女子社員が行っていたのだから、当番の面倒さから解放されたのはとても快適である。

 しかも掃除社の仕事だから亜里沙たちがするよりもずっと丁寧で綺麗になるのだ。

 この件で、女子社員たちの香坂社長に対する好感度がうなぎ上りになったのは、言うまでもない。

 そしてもう一つの変化。

 昼食はたいてい恵梨香とふたりで外のカフェで取っている。

 同期入社以来の仲だから気兼ねなくおしゃべりをして楽しくランチしていたのだけれど、最近では他部署の女子社員が加わるようになった。

 純粋に亜里沙とランチを楽しむためではなく、どうやら亜里沙が社長夫人になることが関係しているようで……。

 今日のランチにはIT部署の子と営業部の子ががふたり加わっていた。

「あ~、これでお茶くみの当番もなくなったら最高なのにね~」

 しみじみ言うのは恵梨香だ。

 来客、会議、休憩時間、当番になった女子社員はことあるごとに席を立って準備しなければならないのだ。掃除と同じく、憂鬱で面倒な当番である。

 亜里沙としてはお茶当番くらい仕方がないことかな、なんて思うのだけれど、それが嫌な人が多いみたいだ。

「ねえ、あなたから社長に頼んでみてくれない? お茶当番廃止してくださいって」

 お願いするように手を合わせてくるのは、IT部署のショートボブの子で、名は佐々木だと言っていた。
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