擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 夫婦となれば、お互いを理解するために、なんでも話したり相談するのは大切だ。けれど、彼の言うプライバシーはそういうことではない気がした。

 亜里沙としても、男性には知られたくない女性としてのアレコレや、趣味の手芸や読書なども、彼に気遣うことなくできるのはうれしい。

 目をキラキラと輝かせる亜里沙の体が、彼の腕にとらえられた。

「でも、眠るのは俺と一緒だよ。どんなときも。これだけは譲れないから」

 彼が少し屈んだ後すぐに膝裏を掬われて、亜里沙の体が宙に浮いた。

「きゃぁっ」

 急に襲われた浮遊感に驚いた後、お姫さまだっこをされていることに気が付いた。

 亜里沙の体重などないかのように平然と歩く彼の向かう先には、木目が美しい飾り彫りのあるドアだった。

「ドアを開けて」

 言われるままにレバー式の取っ手を下げると、スイッチには触れていないのに照明が点った。

 ダークな色合いのファブリックで統一された広い部屋の中に、フロアスタンドにナイトテーブル、キングサイズの大きなベッドがある。

「ここ、寝室、ですか」

 亜里沙の背中に程よい弾力が伝わって、ベッドに寝かされたことを知った。

 すぐに覆いかぶさってきた彼の瞳が獣のように輝いて見えて、心臓が鷲掴みにされたようにキュンと痛む。
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