こんなにも愛しているのに〜それから

これで最後

「深野。
あの日の過ちはお互いがしたことだ。。。」

ゆっくりと深呼吸をして俺は言った。

「でも
俺の飲み物に、何かを入れただろう?」

深野は顔を上げると不敵に微笑んで
答えた。

「あなたがそう思っているのならそうでしょう。
私は、何も、
知らない。」

想定内の答えだ。
その答えで、
俺も深野のことを俺の人生から切れる。

しばらくの沈黙の後、
帰るために俺は立ち上がった。

「じゃぁな。
これ、俺と三谷の分だ。」

財布から1万円札を数枚出して、卓の上に置いた。

「多いわよ。」

「釣りがあったら三谷に渡してくれ。
俺に釣りは不要だと言って。」

「ふっ、、、、
それが最後の言葉ね。」

深野は視線を彷徨わせながら
温くなったビールに口をつけた。

「奥さまによろしく。
お子さんも大きくなったでしょう?
うちの子と同級生かな。」

「。。。。。

深野と会った三日後に、産まれた。」

「早産だったの?
私と会ったことがショックだったのかしら。」

少し、焦り気味の声を漏らした。

「死産だったよ。
心臓が動いていないのが確認されて、、、」

「えっ!!」

深野が動揺した。

「私のせい?
私が言ったことで
大きなダメージを与えてしまったの?」

「深野のせいでもないだろう。
強いて言えば、俺のせいかもしれない。

こんな醜い話をしている父親を、
天から呆れ返って見ているよ。
きっと。」

深野は今までと一転した態度で
謝ってきた。

「ごめんなさい。。。」

「なんであやまるんだ。
あやまる必要なんてない。

それより余計なお世話かもしれないが、
深野のことを大事にしてくれている
旦那に
ちゃんと
感謝するんだな。」

きっと
旦那さんは気づいていると思うぞ。
深野のわかりやすい態度に。
傷ついているのに気づいているか?
自分の傷には敏感なくせに、
人の傷には鈍感だ。

しかし
余計なお世話だ、これ以上は言うまい。
俺は
振り返りもせずに後ろ手で、
襖を閉めた。

これで
終わった。
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