こんなにも愛しているのに〜それから
そうだ。
もう二度と会わない。
会いたくない。

人に言えるようなことをしたのか。
こんなに醜い関係なんだぞ、俺たちは。

「あら、
奥さん喋っちゃった?
西澤くんが私を拒絶しておきながら、
奥さんが
あんなにきれいな妊婦さんしているのに、
ちょっと
嫉妬して匂わせちゃったのよ。」

「茉里は何も言わなかった。
そのことを知ったのはつい最近だ。

それに
俺たちのことに
茉里は関係ないだろう。」

深野が顔を引き攣らせながら
低く叫ぶように言う。
本当は
囁くようにしか言っていないのに。

「西澤くんが悪いのよ。
こんなにもあなたのことを好きなのに、
仕事では、私のことを認めてくれているのに、
女としては見てくれない。
奥さんが一番、、、
でも、二番でもいいから
私を愛して欲しかったの。」

「理不尽で自分勝手な気持ちだな。
俺は深野の仕事ぶりを認めていたし、
人間としても好ましいと思っていた。
でも
女としてどうかというと、
そういうことは考えたこともなかった。」

どうして
人の気持ちも考えずに自分の気持ちだけで、
向かっていけるのか。
なりふり構わず好意を向けられても
迷惑以外の何でもないのに。

「俺に隙があったのか?
自分のことを女として見てくれているって、
思わせるようなことが
あったのか?」

「さぁ
どうだったんだろう。

きっと
そういう雰囲気がなかったから、
ずっと言えなかったんだわ。
もし、私の好きという気持ちがわかったら、
今のいい関係も崩れてしまうって。

だから
これが最後というときに私があなたに
仕掛けたのよ。
私のことを信用している
あなたにね。
私に対して無防備なあなたに。
少しも私の気持ちをわかってくれない
あなたに腹がたったのよ。」

深野の姿勢がだんだんと崩れてきて
顔を俯け、
俺からはその表情を窺うことも
できなかった。

「それで、、、」

深野が呟いた。

「それで、一度関係ができたら
優しい西澤くんのことだから、
私のことを
無下にはできないだろうと、思ったの。
でも
現実は盛大に吐かれて、
私からの告白にも応えてくれず、、、、、
これで、終わりにしようって思ったんだけど。」

「、、、、、」

「今日会ったら、やっぱり好きだなぁって。。。
10年も経っているのに
変わらない自分の気持ちにびっくりしたの。」

どうしてそこまで俺に執着する。
そんなになるまで俺は深野に
好意を示したことがあったのか。

「そんなに迷惑そうな顔をしないで。
仕方がないじゃない人の心は
どうにもならないでしょ。

でも
本当に私といて心底嫌がっている人に、
無理強いをするようなことはしない。
もうしない。」

深野は苦い笑みを浮かべて
弱々しくそう言った。
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