こんなにも愛しているのに〜それから

母と娘

「お母さん。」

高校2年生になったましろが夕飯の席で
私に呼びかけた。

「お父さんとはメールや電話ばっかり?」

「連絡を取るとき?」

「お母さんは用事がないとお父さんに
連絡しないみたいだけど
お父さんはほぼ毎日メールや、
電話をしてくるでしょ?」

「何もないのに電話はしてこないわね。」

ましろは箸を置いて、私に向き直った。

「今はパソコンやスマホで顔を見ながら話せる時代よ。
お父さんに、顔を見せてあげたら?」

「ええ〜!
今更?」

私は面倒くさそうに娘に言った。

「お父さんがシンガポールに行って
1年は経ったけど
その間一度も会っていないでしょ。
電話も数回だし、
ほとんどが
お父さんからの一歩通行みたいなメールで。
お父さん、心配していると思うのよ。」

娘の事を思ってその父親と
離婚協議となったのに
今では
その娘が父親の心配をしている。

「ましろはお父さんのこと、平気なの。」

娘は、
父親がその年若き部下の女性と
ラブホテル前にいたところに
出くわすという、最悪の状況を経験していた。

「何だか怖くって、
今までちゃんと聞けなかったのよね。
あの時、やっぱりもすごくショックを受けて、
お父さんが本当に
薄汚い、ただのいやらしいおじさんに
見えたの。

今でも、思い出すとお父さんを
めちゃくちゃに詰りたいほど
嫌いだけど、
本当にそうなのかなっても思うの。」

私はあの当時娘の年齢と、
受験期という環境もあって
詳しい話はぜず、
ましろが見た事実のみで
離婚をすると言っていた。

しかし
離婚はせずに
今は離婚猶予という言葉で、
夫樹は単身赴任でシンガポールに
母と娘は日本にという
別居スタイルをとっている。

父に対する愛情が母にはあるのだろう。
だから
離婚せずにこうやって別居という形で
夫婦として留まっているのだろう。
自分のせいで。
とましろは思っているに違いなかった。
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