こんなにも愛しているのに〜それから
私のやや誘導尋問じみた話に
彼女は黙り込んでしまった。

「則文はどう責任をとるつもり?」

隣で
息を潜めたように押し黙っている
則文に尋ねた。

「坂上さんには、申し訳ないと思っている。
初めから、本気でもないのに、
しかも
上手に遊べるわけでもないのに、
深く付き合ってしまって。」

則文は卓の上で手が真っ白になる程
しっかりと握り合わせ、
言葉を選びながら
ぽつりぽつりと話し出す。

「会社や、ましてや妻にバラされるのが
怖かった。
でも、僕も狡かった。
あの当時、
仕事を小気味いいくらいにこなすヨシに
劣等感をこれ以上ないくらい、
抱いていた時期で。

かといって、それを理由に坂上さんを利用して
いい訳もなく、
決して
ヨシを嫌いになったわけじゃないんだ。」

私がいい気で仕事をしている間に
わかっていたとはいえ
則文に嫌な思いを
抱えきれないぐらいに
させていたんだ。
わかっていたのに、、、
どこか
会社を救っているという
大義名分を隠れ蓑に、
則文のことを蔑ろにしていたんだ。

「僕には
ヨシは誰にも替えられないくらい
大事な人なんだ。
なのに、君と浮気して、しかも
妊娠、、、なんて。。。」

「浮気、、、
そうですね。初めから、
本気にはなれないって
言われてましたものね。
一度も、
あなたを好きだという
私を見ようともしなかった。
私がどんな人間なのかも、
知ろうとはされなかった。」

この人は
どんな人生を歩いてきたのか
何か全てを諦念した
年齢不相応な落ち着きを感じる。
太々しいと
私が言っていいものか。
西澤くんにとって
私はこういう人間だったのだろう。

「よかったんです。
それで。
会うたびに罪悪感に駆られた顔をして
愛し合って、終わったら、
ひとつ罪を
また
重ねてしまったという
悲壮感さえ感じる顔をされて。
でも
追い縋る私に結局は絡められてしまう
専務を見て、身体は正直だ、、、って、
思いました。
次もあるって。」

二人の生々しい姿を
私に想像させようというのか
彼女の姑息な話の内容に
わかってはいたが
やはり
現実の彼女を前にして
夫との間に横たわっている
男と女の姿を想像してしまい
決して
気持ちがいいものではなかった。

あの日
西澤くんの奥さまも
私を見て
私が話すことを一方的に聞かされ
同じような思いを抱かれたと思う。
私の例の香水の匂いもあり
顔が真っ青になって
洗面所に駆け込まれていた。

私が
西澤くんたちの不幸の
原因に間違いはない。

まさに
あの時の気持ちが
私に帰って来ていた。

私は目の前のことより
その罪の意識に
また
押し潰されそうになり
軽く頭を振った。

「ヨシ、、、
ごめん。」

そういう則文を見ると
目に涙していた。

則文
醜いのは私だよ。

「僕は、坂上さんにできる限りの償いをする。
でも
これ以上関わり合いになるのは無理だし
子供もこれからのことを考えると
認知できない。」

「自分の子なのに、認知できない、、、」

彼女が
抑揚なく呟いた。

「坂上さん。
もし、あなたがその子を生みたいけど
育てるのが難しい、ということでしたら
私に育てさせてください。
偽善でもなんでもなく、則文の子です。
私たちの子供と隔たりなく、家族として
大事に育てますから。」
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