こんなにも愛しているのに〜それから
「ある日、友達と食事に行った小料理屋さんで
専務に偶然お会いしました。
私が、いつもお世話になっていますって
声をかけたんです。
お一人でしたから。
それから、友達と食事をして、心の中で、
どうぞ先に帰らないでって願っていました。」

自分のこの強い思いが絶対に相手に通じる筈という
彼女の勝手な思いがわかる。
私と同じだから。

「食事を終えて、お先ににと言って
帰りましたが、
途中で友人に店に忘れ物をしたと
嘘をついて、先に帰して
店に戻りました。
願いが通じたのか専務は、
まだ一人で飲んでいらっしゃいました。」

「知らなかった、、、」

則文が呟く。

「私から声をかけて、
一緒に飲んでいろいろとお話をしました。
あの日の専務は本当に寂しそうで、
見ていられなかったんです。
奥様はバリバリのキャリアウーマンで、
颯爽としていらして
かっこいいですね。って言ったら、
そうだね。
できすぎる妻を持つというのも、
なかなか男は大変だよ。
って。
すごく寂しそうだったんです。
それで
その夜に、、、そういう関係になりました。」

私と同じ。
人の隙をついて自分の思いを遂げる。

「則文と何か約束をされましたか。」

「いいえ。
終わったら、さっさとシャワーを浴びて、
着替えて、
それからホテル代とタクシー代、
それにプラスアルファの
お金を渡されました。
今夜限りだから、
もう会わないから。
これは
魔がさしたとかしか言えない。
ごめん。」

彼女は傷ついているはずなのに
淡々と馴れ初めを話した。

「だけど
うちの会社でまたお会いして
その時の専務の顔、酷いものでした。
あの時に挨拶をして、返事をされたから
てっきり私のことをご存知かと思ったら
全然ご存じでもなくって、
私が話しかけてやっと、繋がったらしく、
あぁ、本当に一夜限りの関係だと
切り捨てられたんだなぁって
悲しくなりました。

それでも
私は好きだったので
一生日陰でもいいし、
家庭を壊すような真似もしないから、
時々は会って欲しいと言いました。
専務が寂しい時は駆けつけるからと。

専務は逃げ腰で、あの夜限りだからって
言っていらしたけど、
私が追い縋って、、、
うちの会社とも取引があるし
この業界は狭いので、怖かったのでしょう。
渋々頷いてくれて、
それからは吹っ切れたように
時々抱いてもくれました。

私は、一度男と女の関係になったら、
ずるずるとセフレでもいいから
繋がっているって思い込んでいました。
私は専務が好きだからそれでいいんです。
でも専務は、暫くすると
会うたびにもうよそう、
こういう関係って言われて
私は別れるくらいだったら、
専務の奥様に言うからって
脅して、、、」

私が西澤くんに抱いていた気持ちと一緒だ。
一回寝たら
あとも繋がっていく。

「日陰でもいい、家庭も壊さないって
言っていらしたんじゃない?」

「もう捨て身ですよ。
ここで、別れるくらいだったら、
私ごと全部壊しちゃえって。」

「則文はあなたのことを好きで
付き合っていたわけではないみたいだけど
それでもよかったの?
あなたの完全な一方通行よね。」

「ええ、私と一緒にいることで専務の心の中に
少しでも私の居場所があれば。」

「妊娠したのは、わざと?
則文を引き止めるため?」

「避妊には人一倍気をつけらしたと思います。
それでも、専務の子を妊娠できるなら、
妊娠したいって考えていました。」

「どうして認知して欲しいって思ったの?」

「専務がもう会わないっていうから、、、
専務がこれからも私と会ってくれるなら
認知してなんて言わなかった。」

「認知させるということは、
この子の責任を彼に負わせることよね。
家族に知れても。
あなたが壊さないから、って言っていた
私たち家族を壊すことにもなると
思うのよ。
きっとあなたは、子供に何かあるたびに
則文を呼び出すと思う。
そのために子供が欲しいんじゃないかと
思うの。
自分が則文と一緒にいられないのなら、
いっそ
子供がいれば、邪険にはできないはずって。」

自分の思いを遂げるためには
子供も利用する。
そう
西澤くんへの私の思いも
そういう醜い思いの塊だった。
< 41 / 61 >

この作品をシェア

pagetop