こんなにも愛しているのに〜それから

樹の回想

ましろに見咎められたあの事。
相手の斉木は
あれから退職まで
有休消化ということで
ほとんど出社をせずに会社を
辞めて行った。

同じシマの者達にも一言の
挨拶もなかったそうだ。
俺のせいでもあるから仕方がないが。

それから間を置かず
俺も退職することになって
やはり
俺と斉木との仲が噂通りだったんだと
女性達にいい話のネタを提供したらしい。
これは
部下の女性加藤が教えてくれた。

「後味の悪い引き際を作られたのは、
室長ご自身ですからね。」

と小さく囁きながら
退職の日
加藤は部代表で俺に花束をくれた。

それ以外に
俺は会社や部署がするという
全ての送別会を断った。
部下たちには
それぞれ
労いと感謝の言葉を述べた。
いろいろなものを引き摺りながら
辞めていきたくはなかった。

林田からもアメリカから帰ってきて
一緒に飲もうと
連絡をもらったが
断った。
どうせ
この後に及んでもなお
俺をいいように
引き留めたい
だけだろうから。

今までのキャリアも
地位も
全て捨て去って
後顧の憂なく
退職する決心をしていた。

あんなに辞めることを
悩んでいたは
一体なんだったのだろう。
自分のプライドを捨てられなかった
だけかもしれない。
林田の所為ばかりではなく
俺という人間の小ささから
回り道をした。
茉里を傷つけながら。
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