いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
仕事中は業務上必要なやり取りをしないわけにもいかないけど、仕事のあとに二人きりになるのはしばらく避けたい。

なんとかして夕飯を断る口実を見つけなければ。


そのあと就業開始時間になり、安藤部長から渡された見積もりの修正案をもとに契約書を作成した。

パソコンに向かっていると、どこからかなんとなく視線を感じて、顔は動かさずに視線だけをわずかに動かしてみたけれど、誰もこちらを見ている様子はなかった。

……気のせいかな。

あんな夢を見てしまった後ろめたさで、少し神経が過敏になっているのかも。

だいたい私の脳内で何が起こっていたって、他人から見えるわけではないんだ。

今は余計なことを考えるより仕事に集中しよう。

そう思いながら再びパソコン画面に視線を戻し、契約書の作成作業を続けた。

その後、契約書を完成させた私は、なんとか平常心を保とうと意識を張り詰めて安藤部長の席に向かった。

「安藤部長、キングダムカフェの契約書できました」

いつも通りを装って声をかけると、安藤部長はパソコン画面を見たまま、返事もせずに黙って手を差し出した。

私が手渡した契約書を受け取った安藤部長は、目を通して不備がないか確認したあと、無愛想に「ありがとう」と言った。

< 193 / 991 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop