いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
「お……おはようございます……」

振り返りはしたものの、顔を見ることができずうつむいたまま挨拶をすると、安藤部長は資料の束を差し出した。

「これ、キングダムカフェの見積もりの修正案。昼までに契約書作っといて」

「……わかりました」

絞り出すような声で返事をして、デスクに向かいパソコンの電源を入れると、安藤部長はそれ以上何も言わずに席に戻って行った。

いつになく無愛想だったような気がするけれど、露骨に避けたのがバレて機嫌を損ねてしまったんだろうか。

ゆうべから私の脳内では、安藤部長の迫り来る映像が何度も何度も繰り返し再生されている。

ベッドの上で寝返りを打ちながら、安藤部長のことなんか好きじゃない、絶対に好きになんかならないと拒絶したにもかかわらず、ようやく睡魔が襲って来た頃にはぼんやりとした頭で、現実に起こったことのその先を妄想していた。

寝過ごしてしまいあわてて歯磨きをしているときに、夢の中で安藤部長と裸で抱き合ってお互いの体を激しく求め合ったことを思い出し、あまりのはしたなさにめまいがした。

こんなのまるで、私が安藤部長に抱かれることを望んでいるみたいだ。

そう思うと恥ずかしくて、安藤部長の顔をまともに見ることができなかった。

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