いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
「だったらもうひとつお願いがあるんですけど、寝室は別にしてもらえますか？」

「そうだな。それも一応考えとく。じゃあ……とりあえず今日はもう遅いし帰るよ」

「はい、お疲れ様でした」

会社にいるときのように私がそう言うと、安藤部長は切れ長の目を寂しそうに細めて私を抱き寄せた。

私は一瞬の出来事に抗う術もなく、安藤部長は強引に唇を重ね、熱い舌先で無理やり私の唇をこじ開けて、貪るように舌を絡める。

息をするのもままならないほどの激しいキスのあと、安藤部長は私を強く抱きしめて優しく頭を撫でた。

「おやすみ、真央。また明日な」

安藤部長は私の耳に吐息混じりの甘い声で囁いて帰っていく。

一人になると、みるみるうちに込み上げた涙が頬を伝っていくつもの筋を作った。

あの人を抱いた手で私を抱きしめ、あの人に触れた唇で私の唇にも触れたのだと思うと悲しくて、涙が止まらなかった。

好きになんてならないはずだったのに、安藤部長に私とは別の相手がいることにショックを受けて泣くなんて悔しい。

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