いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
『俺のことを好きになれ』と言ったのは安藤部長なのに、好きになった途端こんな仕打ちはあんまりだ。

私のことを好きじゃないならキスなんかしないで。

あの人の肌に触れた余韻を残した手で私に触れないで。

私を縛り付けておく必要なんてないんだから、優しいふりなんかせず放っておいて。

手離すつもりがないなら、私だけを好きになってくれたらいいのに。

この短期間でいつの間にこんなに好きになっていたのか、嫉妬と独占欲で醜くなった心の中で、一方的に安藤部長を責め続ける。

こんなことをしたって意味がないのはわかっているけれど、こうでもしていないと自分を保てなくなりそうだ。

泣きながら目を閉じると、浮かんでくるのは安藤部長の笑った顔や、優しい声と甘い言葉ばかりで、余計に涙が止まらなくなる。

いっそのこと大嫌いになってしまえたらいいのに。

だけど私が一番きらいなのは、好きな人に素直になれない卑屈な私。

いつだって傷付くのを恐れて、人の目ばかり気にして周りの様子を窺って、そこから一歩前に踏み出す勇気もない。

こんなだから私は、誰からも本気で愛してもらえないんだ。




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