いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
だけど今は仕事中だ。

安藤部長が私に仕事を頼みたいと言うのは嘘ではないようだし、結婚の話はすぐに済むとは思えないので、今は仕事の方に集中したい。

それにこんな話を誰かに聞かれでもしたら、とんでもない騒ぎになることは目に見えている。

「すみません、ここでその話は……」

私が話を切り上げたいと思っていることを察したのか、安藤部長は元の上司の顔に戻ってニコッと笑った。

「じゃあとりあえずこの話はまた仕事のあとにでも改めてするとして……仕事の話に戻っても?」

「できれば会社では仕事の話だけにしてください」


仕事の話が済んで席を立とうとすると、安藤部長は胸ポケットから私の社員証をチラリと覗かせた。

「これは預かっておくから」

「返してもらわないと困るんですが」

「さて、どうしようかなぁ」

私をからかって楽しんでいるのか、安藤部長は鼻唄でも歌い出さんばかりの上機嫌な顔をしている。

もしかしてさっきの話も私をからかうための嘘だったりして……。

そうだとすれば、こんなたちの悪い嘘をつかれたことには腹が立つけれど、飲みすぎた私にも落ち度はあることだし、大人だから笑って水に流すことにしよう。



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