いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
私は大きく息をついてスマホを握りしめ、社長から受け取った名刺の下の方に書かれた手書きの電話番号をゆっくりとタップした。

そして自信に満ちたあの表情を思い出しながら、固く拳を握りしめ、悔しくて溢れそうになる涙を堪えつつ、創さんと離婚する代わりに私の地元の人たちの働く場所を奪わないでくださいと懇願した。

社長は『何のことだね?』としらばっくれていたけれど、私を屈服させるために地元の企業や農家に取引の契約の解消を匂わせたことは、勝ち誇ったような口ぶりが物語っている。

これでもうあとには引けない。

私は私の意思で、創さんとの結婚生活より、弟や妹、そして地元の人たちの生活を守ることを選んだ。

いつか子どもできたら二人で目一杯愛情を注いで一生懸命育てようとか、子どもが巣立ったあともいつまでもずっと一緒にいると話したのはつい数日前のことなのに、私はその舌の根も乾かぬうちに創さんとの離婚を決めてしまった。

本当は創さんとずっと一緒にいたい。

二人で淡く思い描いたような、どこにでもある平凡で幸せな家庭を築きたかった。

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