いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
時計の針が3時半を指そうとする頃、リビングのテーブルの上に離婚届を置き、バッグを手に部屋を出ようとした。

玄関で靴を履こうとしたとき、下駄箱の上のリングピローに置かれたままの創さんの結婚指輪が目に留まった。

そうだ……。

創さんの妻でなくなる私には、もうこの結婚指輪をつけている資格がない。

指輪だけでなく、創さんに買ってもらったものは置いていこう。

リビングに戻って結婚指輪とダイヤのネックレスを外し、創さんに買ってもらったバッグと生活費用の財布と一緒に、離婚届のそばに置いた。

こういうとき、ドラマなんかだと『ありがとう』とか『探さないで』などと書き置きを残したりするんだろうけど、訳も話さず約束をやぶって出ていく私が残せる言葉なんて『ごめんなさい』しかないから、それはやめておこう。

何も残せない代わりに、心の中で『ありがとう、ごめんなさい、愛してる』と呟いた。

ほんの少しの短い間だったけれど、創さんと一緒にいられて幸せだった。

私のことをあんなに大事にしてくれる人も、私が心の底から愛しいと思える人も、これまでもこのさきも創さんだけだと思う。

もう会うことはできなくても、私はきっと創さんと過ごした夢のように甘い日々を忘れないだろう。



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