Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
玄関扉が閉まり、振り返った匠くんの瞳は冷たい。じりじりと迫られてしまえば、直ぐに背中が玄関扉とぶつかった。
「亜子ちゃんは僕のお嫁さんだよね?」
「・・・」
「僕に嘘ついてもいいの?」
「そんな言うほっ・・・、んんぅ」
口ごたえを許さないように塞がれた唇はひんやりと冷たい。ぬるりと割り入ろうと動く舌の熱さに比例して、目の奥のほうが燃えるように熱くなっていく。どうして匠くんが怒っているのかわからなかった。ただ、私の二の腕を握る匠くんの手が震えていて、なんだかわからないのに涙が溢れて止まらないのだ。目の前の怒りと悲しみに震えている子犬を抱き締めたくて、自由な右手を匠くんの頬に添える。激しいキスだって受け止める。だから、泣かないで。
「あ、こちゃ・・・」
唇の隙間から名前を呼ばれれば、その声色に勘違いしてしまいそうになる。濡れた瞳と紅潮した頬に、胸が高ぶって仕方がないの。
何時しか腕を掴んでいた手は私の指に絡められていて、逆の手は私の腰に回り彼のほうへと引き寄せられていた。離れがたそうに啄ばむ唇が離れ、五センチの距離で見つめ合う。
「ごめん。なんか僕、最近だめで。抑えられなくなっちゃって」
「私こそごめん。匠くんが忙しくしているのに、なんの力にもなれていない」
「んーん。亜子ちゃんは僕の傍にいてくれるだけでいいんだ」
「そんなの・・・だめ。髙め合えてこそ、夫婦だもん」
ぎゅっと強く抱き締められた。肩口に埋められた匠くんの顔は見えなくて、頬に当たる髪は少しくすぐったい。
「僕、知ってたんだ」
「知ってた?」
「田村さん」
「___ああ」
言われて気付いたのは失礼だけれど、その後のことで記憶から抜けてしまっていた。
「外で会った。亜子ちゃんと居たって言われて、嫉妬でどうにかなりそうだった」
「しっ、と?」
「嫉妬」
「匠くんが、田村さんに?」
「うん」
「どうして?」
「僕だって亜子ちゃんとデート行った事ないのに。あの人はこれまでの亜子ちゃんを知っているだけで腹が立つのに、それに年上だし・・・僕は勝てない」
思わず笑みが零れていた。その吐息に気付いた匠くんが私を見て、不満そうに口元を歪めるのでさえ可愛い。
「匠くんの圧勝だよ。私こそ、匠くんには一生勝てない気がする。私よりも一万倍可愛いしね」
「可愛いは嬉しいけど、亜子ちゃんに言われるのは嬉しくないなあ」
にっと悪戯に笑った匠くんに、ひょいっとお姫様抱っこをされながら運ばれる。驚きと恥ずかしさで足をバタつかせてみても、匠くんは涼しい顔で歩いて行く。もうされるがままで、諦めて両腕を匠くんの首元に絡めて捕まった。