永遠の愛を君に…
消えた
 三月。

 桜の蕾がようやく綻び始めた頃、俺は卒業した。
卒業証書を受け取り、謝恩会で騒いだ後、帰宅する。
今月上旬から、桃香は胃腸風邪を患っている。
だから、桃香は二週間前から俺の部屋にいる。
俺の出発まであと十日。
少しでもそばにいたいし、それまでに元気になってほしい。
明日には、大学病院に連れて行って検査してもらおう。


 謝恩会から帰宅すると、部屋は真っ暗だった。
寝てるのかな?
俺は灯りをつけて部屋に入る。

あ…れ? 桃香がいない?

朝まであった桃香の上着もないし、靴もない。
自分の部屋に帰った?

ふと見ると、テーブルの上に一枚のメモ。

『今までありがとう。
さようなら 』

何?
どういうこと?

俺は戸惑いながらも、桃香に電話をする。

桃香、出て!

俺は、祈るように桃香の名前をタップするが、聞こえてきたのは冷たいアナウンス。

「お掛けになった電話番号は… 」

嘘だろ!?


俺は、急いで桃香の家へ向かった。
玄関で呼び鈴を押すが、返事はない。

まだ帰ってない?

「桃香、入るよ」

俺は声を掛けて、合鍵で玄関を開ける。
中は真っ暗だった。

まだ帰ってない?

中で待たせてもらおうと、俺は、玄関傍のスイッチを押した。

え?
俺、部屋を間違えた?

わけが分からない。
部屋の中は、まるで内見に来た時のように何もなかった。




その日、桃香は突然、俺の前から消えた。
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