副社長の初めての相手は誰?

「希歩さん。優輝は…ずっと、貴女を探していました」

「え? 」

「優輝は私に言いました。「自分が心から愛した人の事は、最後まで信じている」と…。逆に私達が、怒られましたよ。「僕が愛した人の事、なんで簡単に疑うの! 」ってね」


 何を言っているの? 顔も違うのに、分かるはずがないのに…。

 ただの挑発? …それにしては、なんでこんなに…。


 何も言えなくなり、希歩は黙ったまま俯いた。


「あの。こんな話を、するべきではないかもしれませんが。私も、優輝とは10年間ずっと離れ離れだったことがありました」


 俯いたまま、希歩はちょっとだけ視線を上げた。


「私も妻と結婚するまで、ずっと10年近くすれ違っていたのです。妻は、火災事故で記憶障害になり私の事を忘れていたんです。火災事故は、人災で、命を狙われていると思った妻は整形で顔を変え全く別人になっていました。」


 え? …

 思わず驚いて、希歩は優を見た。


 優はちょっと痛い笑みを浮かべた。


「初めは分かりませんでした。ただ、胸がキュンとなって。忘れられなくて。気づいたら好きになっていたんです。でも一緒にいる優輝を見た時、この子は間違いなく私の子供だと思いました。幼少期の私とそっくりでしたから。優輝は、その時10歳でしたが、必死に妻の事を守ってくれていました。「お母さんは、すぐに忘れてしまうから」と言って、優輝がずっと護ってくれていたのです。その時、私は決めました。たとえ、妻が何も覚えていなくても、私の事を忘れてしまっても。私は愛してゆこうと。…そう決めた時、奇跡が起こりましてね。妻の記憶が戻って来たんです」

 
 記憶が戻った…。

 そんな事が…。


(お母さん…)

 ふと、希歩は絢が初めて会ったのに「お母さん」とまるで前から知っていたかのように呼びかけて来た事を思い出した。


 何故、絢は一度も会ったことがないの「お母さん」と言ったのだろう。


 優輝も…。

 とても優しい目で見つめてくれる…。



 希歩はそっと、自分の顔に触れた…。


 私…整形しているのに…どうして分かったの? 


 その答えを求めるかのように、ゆっくりと、希歩は優を見つめた。


 目と目が合うと優はそっと微笑んでくれた。


 その微笑みは、優輝とそっくり…。

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