副社長の初めての相手は誰?
「すみません、私の話などしてしまって。ただ、ずっと後悔しているのです。息子に、私と同じ思いをさせてしまった事を…」
ギュッと口元を引き締めて、希歩は気持ちを落ち着かせた。
「1つだけ、教えて頂けますか? 」
震える声で、希歩が尋ねた。
「何ですか? 」
「なぜ、春美さんと優輝さんは結婚されたのですか? 」
尋ねられると、優はとても辛い目をした。
「10年前。私を乗ていた車が、春美さんを跳ねてしまったのです」
「え? 交通事故ですか? 」
「はい。軽い事故ではありましたが、その事故で春美さんは左足が動かなくなってしまったのです。天涯孤独で身寄りがない春美さんは、一人で生きてゆけないと言って優輝との結婚を申し出て来たのです。私は、そんな事で優輝と結婚なんてさせられないと言ったのですが。結婚させてくれないなら、事故の事をマスコミに公表して世間にばらまくと言い出しましてね。見かねた優輝が、結婚を承諾してくれたのです」
希歩は春美の歩いている姿を思い出した。
この前すれ違った時。
確かに春美は杖を突いて、左足を引きずっていた。
だが、どこか違和感があった。
足が不自由なわりには、厚底のサンダルを履いていて、露出もかなり高い恰好をしている。
一般的に足が不自由な人は、隠したがるものである。
引きずった足もなるべく見られないように、ロングスカートやスラックスなどで見せないように意識的にするものだが。
あの春美の様子から、とてもそんな風には見えなかった…。
「優輝は私の為に、春美さんと結婚してくれたのです。でも…それも終わりにしたいと思っています」
「終わりに…できるのですか? 」
「はい。終わらせます。その為に、こうして貴女とちゃんと向き合っているのです」
どうしよう…。
そんな事があったとは知らなかった…。
キュンと希歩は胸が痛くなった。
コンコン。
「失礼します」
入って来たのは海斗。