副社長の初めての相手は誰?
玄関を開けると、仕事帰りでスーツ姿の優輝がいた。
ちょっとラフすぎる格好を引け目に感じた希歩は、少し視線を反らした。
「ごめんね、突然来てしまって」
「い、いいえ。…絢が、会いたがっていたので…」
「入ってもいいかな? 」
「はい、どうぞ…」
優輝がリビングに来ると、絢が大喜びで飛びついてきた。
「お父さん、来てくれたんだね」
「ああ、元気にしていたか? 」
「うん、すっごく元気になったよ。顔の傷もね、治って来たんだよ」
「よかった」
「あの…。今から夕飯ですが…良かったら、一緒に食べませんか? 」
ちょと恥ずかしそうに、希歩が言った。
「いいの? 僕まで頂いて」
「はい…焼き魚なんですけど。ちょっと余分に、焼きましたので」
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えてご馳走になるよ」
「じゃあ、用意しますから。待っててください」
ちょっと素直になった希歩は、なんだかとても可愛く見える。
優輝も絢も、そんな希歩を見ると嬉しくなった。
夕飯は焼き魚と、肉じゃが、ひじきの煮物、豆腐のサラダが用意された。
ご飯も炊き炊きたてで、お味噌汁も具沢山である。
「嬉しいなぁ。僕は、和食大好きなんだ」
とても嬉しそうに食べてくれる優輝を見て、希歩は素直に喜びを感じていた。
楽しい食事のひと時。
でも、本当ならこの光景が普通だったのだ。
ここに忍がいれば、家族みずいらずになる。
食事が終わると、優輝が食器を洗ってくれた。
その間に希歩はお風呂掃除を済ませた。