夜空に君という名のスピカを探して。
「俺の身体を使ったらいい。それで、俺が楓の読者一号っていうのはどうだ?」

『なんで……そこまでしてくれるの?』

「言ったろ、ずっと考えてたって。これでも俺なりに精一杯考えたんだぞ、不服か」


 また、そんなことを言って。

私が不服なわけがない、むしろ嬉しいに決まっている。

それは小説を書けることにではなく、君が私のためになにかしようと考えてくれたことに対してだ。


『もう、宙くんって不器用だよね』

「おい、緊張してたのに傷を抉るな」

『ごめん、ごめん。嬉しいに決まってるよ、ありがとう』


 もう叶えられないと思ってた。

その夢に少しでも触れられるなんて、それこそ夢みたいだ。

感動して、私はまた泣きそうになる。


「俺たちふたりで叶えよう」

『私たち、ふたりで……か』

「前に俺の夢を打ち明けたのも、ここだったな」

『そうだね。ふふっ、宙くんは天文学者に』

「楓は物書きに」

『本当に望んでるものはなんなんだろうって、一緒に悩んだよね』

「あぁ、お前のおかげで俺は見失わずにすんだ」


 そう言って星空を見上げる彼の視線の先にあるのは、やっぱりスピカだった。

ここは私たちにとって特別。

描けなかっただろう夢に、一歩踏みだすきっかけをくれた大切な場所なのだ。


「楓の夢は、俺が応援する。世界中の人間が否定しても、俺だけは楓の味方だ」

『っ……もうっ、嬉しくて死ぬ。いや、もう死んでるけど』

「おい、笑えない冗談を言うな」

『ははは、そこはお世辞でも笑ってよ』


 本当に欲しかった言葉を宙くんがくれた。

 ありがとう、私に夢をくれて。

 ありがとう、私と出会ってくれて。

 言葉で表すと薄っぺらくなってしまうくらい、彼への感謝の気持ちでいっぱいだ。

人って不思議なもので、嬉しかったり幸せを感じているときは世界が色づいて見える。

だから今日の星空はいっそう美しい。

いつか私が世界から消えてしまっても、この景色と宙くんの言葉だけは忘れたくないなと、心の底から思った。

< 104 / 141 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop