夜空に君という名のスピカを探して。
『……うん』


 私は重い口を開いて、それでも彼に偽ることなく告げる。

ふたりの間には沈黙が訪れ、聞こえるのは風の音と木々のざわめきだけだった。

 なにを話せばいいのか、分からなかったのだと思う。時間が惜しいのに、伝えたいことはたくさんあるのに言葉が出ない。

 誰もいない、三百六十度見渡せる星空の公園。前にも思ったけれど、ここにいると世界にふたりきりしかいないかのように思える。

なんて幸せな瞬間なのだろう。


「まるで、俺たちしかいないみたいだな」

『あ……私も同じこと考えてた』


 思考回路まで同じだなんて、それだけ私たちが思い出を重ねてきたということだ。

出会ってからの時間はさほど長くはないけれど、濃い数週間だった。

 ふいにヒンヤリとした春風が、宙くんの前髪をサラサラと揺らした。


『宙くん、ちょっと髪に触ってみてよ』

「は? なんでだよ」

『いいから! ね、お願い』

「……まぁ、いいけど」


 怪訝そうに、それでも宙くんが私の言った通りに自分の髪に触れてくれる。

サラサラのフワフワ。触り心地のいい、綺麗な黒髪だ。


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