夜空に君という名のスピカを探して。
「彩、背後から忍び寄ってたし、確信犯」

「わっ、びっくりした!」


 突然、ヌッという効果音が合いそうな登場をした彼女は、静かな深海を思わせる黒の瞳とお下げ髪が特徴的であるもうひとりの親友、清水 由美子(しみず ゆみこ)だ。

「三年間同じクラスとか、これはもう運命でしょ」

 ヒシッと私たちに抱き着いてくる彩に、由美子は乏しい表情で「呪いの間違いじゃない?」と言った。

それに三人で顔を見合わせると、ぶっと吹き出す。


「そんなことより、進路希望なに書こっかなぁー。やっぱ、流行りのユーチューバーかな」

「彩、現実見たら? ユーチューバーなんて、お先真っ暗でしょ」

 鼻で笑う由美子に、彩は頬を膨らませる。

古風な由美子と現代っ子の彩は基本的に考え方が真逆だ。こんな衝突も、恒例行事である。


「なに言ってるの由美子、今は自己プロデュースの時代なんだよ」

「自己満足、の間違いでしょ」


 虫をあしらうようにサラッとひどいことを言う由美子は、決して悪気があるわけではない。

建前ばかりがあふれるこの世界で、正直に生きているだけなのである。

なので歯に衣着せぬところも大目に見てあげてほしいのだが、彩もある意味正直な人間なので引かない。


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