夜空に君という名のスピカを探して。
「……普通だろ」

 返答までに長い間があった。しかも、やけに心拍数が上がっている。

これはなにかを隠しているに違いないと確信した私は『白状しなさい』と問い詰める。

すると宙くんは、うっと呻いて重い口を不本意そうに開く。


「天文学者に……なりたかったんだ」

『へぇー、なるほど。だから、そんなに星に詳しいんだ』

 宙くんは頭がいいし、学者になるのも夢じゃないだろう。

だけど、どうして過去形なのかが気になった。

『……どうして、“だった”なの?』

 聞いていいものか、もちろん悩んだ。でもやっぱり気になるものは気になるわけで、我慢出来ずに尋ねる。

「俺は生まれたときから、加賀見不動産の跡取りになることが決められてるからだ」

『あっ……』


 そうか、だから宙くんは過去形で夢を語ったのだ。

 宙くんはこれから先も自分の本当の夢を誰にも言えずに、秘密にして生きていくのだろうか。

彼の人生は彼自身のものなのに、生まれた場所や親に左右されて将来を強制される。

ときにはあなたのためを思ってとか、あたかも善人のふりをして、私たちの羽をもぐと自由を奪う。

 決して両親が嫌いなわけではなかった。

 ただ、先ほどスピカを見つけたときの感動にも似た気持ちで、私は夢の星を見つけたのだ。

それを両親から否定された途端、その星を握り潰された気がして胸が引き裂かれそうになった。

 夢は魂だ。

自分がこれになると決めたその瞬間から、自分の身体とは切っては切り離せないほど癒着する。

いつだっただろう。

赤ちゃんは生まれたとき、その手の中に夢を握りしめているのだと聞いたことがある。

その夢を探して、叶えるために生きていくのだと。

だから私たちは、夢という魂のかけらを探して長い人生の旅に出る。

私は恵まれていた。

十七歳という若さで、物書きになる夢を見つけることができたのだから。

 だからこそ言いたい。

彼が天文学者になる夢を捨てられずにいるのなら、手放さないでくれと。

それは魂の一部を失うことと同じで、血は出なくともずっとずっと後悔として痛むから。


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