夜空に君という名のスピカを探して。
『う、うん……。い、今起きたんだけど……』


 それを聞いた彼は目を見張ったが、すぐに【テスト中だから、あとで話そう】と書いて再び問題を解き始めた。

宙くんの言葉に『うん』と返しながら、私はひたすらに混乱していた。

 こんなこと、今までなかった。

私はいったいどうしてしまったのだろう。

胸に膨らむ不安に、今にも押しつぶされそうだった。



 小テストが終わり、十分休みが与えられた宙くんは、話しかけてきたダイくんとカズくんにトイレへ行くと嘘をついて教室を出た。

そして東西に分かれるふたつの校舎を繋ぐ、外の渡り廊下までやってきた。


「楓、ここなら誰もいないから」


 それは人目を気にせずに話せる、という意味だろう。

とは言っても、私もなにから話していいのやら困った。


「楓だけがあとに目覚めるって、俺たちは感覚を共有をしているんじゃなかったのか?」

 渡り廊下の柵に寄りかかって、宙くんは考えるように顎をさする。

『うーん……。私もそう思ってたんだけど、今日は違ったみたい』

「前にも、俺と感覚のズレみたいのを感じたことはあるか?」

『ううん、こんなこと初めてだよ』


 そもそも感覚を共有しているというのも、あくまで私の仮定だったから想像の域を出ない。

きっと今日だけ、一時的なものだろう。

そう自分に言い聞かせるように言ってみるけれど、不安は拭えない。


 だって、私が彼に憑りついていること自体があり得ないことなのだ。

だからいきなり彼の中から、いなくなることだってあるだろう。

宙くんの霊感的なものがなくなって、私の声が届かなくなることだってあるかもしれない。


 そう思うと、いつもと違う状況というものがすごく恐ろしく感じた。

私と宙くんの関係というのは、雲の上を歩くみたいに不安定なものなのかもしれない。


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